コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.20 )
- 日時: 2014/10/25 19:54
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: q0osNPQH)
—16 共存する闘争
驚愕の表情のアルスラ。
飛び散る機械片、破壊された装甲。
アンリに貫かれた左肩。
閃く刃が己の上体半身を大きく薙ごうと力強く迫る。
「好きにさせはしないっ!!」
しかし瞬時に身体を旋回させ、展開し覆う機翼をアンリに打ちつけ、二刃の連撃を防いだが、斬り込まれた刀身は左上腕と左翼を削ぎ飛ばした。
「往生際が悪い。でも翼は奪った。これで飛行能力は半減したはず」
アンリは二対のナイフを振り抜き、アルスラの片翼を完全破壊する。
「ははっ! 良いね、君!! でも、まだまだこれからだよっ!! コイツをプレゼントしてあげるっ!! スティング・アイ、チャージ!!!」
左腕を損失しながらも楽しそうに笑うアルスラ。
その左の目、機械義眼が明滅し、光が集束されると波襲音と共に高出力のレーザーが撃ち出された。
「!!」
分断するように上下に穿つ黄光線。
僅かに身を捩ったアンリの右肩を瞬時に通り過ぎると、一瞬遅れて地上に爆音と粉塵と衝撃が巻き起こる。
そして肩から右腕がズルリと滑り、離れた。
一斉に噴出する鮮血。
「もっと! もっと血を見せてよっ!! 君の綺麗な血をっ!!!」
再びアルスラの機眼が明光してレーザーを放つ。
だがアンリは墜ちた右手から零れたナイフの片刃を口で受けると空中を宙転して軽やかに破壊光線を避け地上に降り立ち、刃を咥えたまま上空のアルスラに鋭く怜悧な視線を向ける。
「ふふっ。もうちょっとで半分こに出来たのに、素早いね。でもこれ以上遊ぶとボクのエネルギー残量が尽きそうだから次の一撃で本気で消してあげる」
今まで以上にアルスラのスティング・アイに集束される高密度のエネルギー。
アンリは夥しく流れ溢れる血液に構わず、静かに眼を閉じ咥えたナイフを残された左手に持ち替える。
「・・・怜薙兄さん。限界指定解除の許可を。あれを狩る。『殲滅』する」
アンリたちが戦う場から遥か上空、成層圏の頂。
管理軌道衛星『ツァバト』からのモニター画像で一部始終をトレーラーで視ていた怜薙。
広範囲に巧妙に仕掛けられた電子ジャミングを強制撤廃させるために一部の者たちだけに与えられた権限のひとつを行使した。
黒縁眼鏡のフレームを僅かに押し上げ、先程少女に求められた返事に解答する。
「アンリ、返答はYesだ。限定解除を許可する。速やかに眼前の敵を『殲滅』せよ。これは命令でもある」
感情が籠らない眼差しで冷徹に言い放つ。
敵はすべて殲滅。
自分たちの前に立ち塞がる障害は排除する。
例外は、無い。
例えそれがどんな強大な相手だとしても。
そう決めたのだから。
あの日、あの時に。
ふたりで。
閉じた目をゆっくりと開くアンリ。
「・・・あなたの本気? そう。わたしも見せてあげる。わたしの本当の力を・・・」
銀の双眸が紅く色付いており、徐々にその濃さがありありと増していく。
あたかも死が黄泉へと誘い手招きするように。
「あなたのダンスに付き合ってあげる。絶望という名の鎮魂歌を調べにして・・・」
獣のごとく縦に収縮する瞳孔。
まるで煉獄の情景を映し取ったかのように暗澹の灯火を燈らせた。