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- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.22 )
- 日時: 2014/11/19 08:29
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: AEu.ecsA)
—18 告げるもの
燃え猛る蓮焔のごとく、真っ赤に染まる緋の双眼。
奮い沸き立つ並みならぬ殺意の鬼気がひしひしと上空のアルスラの冷たい機械の全身を貫き震わす。
殺るなら今しかない。
今この時、全力で自身の全パワーのレーザー放射を繰り出せば、避ける暇など微塵も無く容易く殺せるかもしれない。
あるいはこれが最高にして最後の攻撃のチャンスなのかもしれない。
しかし彼女は薄く唇の端を吊り上げる。
微笑。
そんな無粋な、勿体無い真似は絶対にしない。
だって、とっても素敵じゃないか。
全力で、本気で、自分に向かって来るというのだ。
あの死神が。
己に。
期待と羨望の眼差しで嬉々として、これから眼下で起こり得る事の成り行きを見つめるアルスラ。
ゆっくりと白い呼気を吐き出すアンリ。
両手を左右に大きく広げると銀紗の頭髪が波立て逆立ち、まるでそれ自体が意志を持つひとつの生き物のように縦横に伸び上がる。
それらは一斉に少女のか細く華奢な矮躯を一瞬で包み覆い隠す。
四肢を無尽に埋め尽くす銀糸の衣。
血潮が零れる欠損部位を補うように純銀色の腕手が形作られる。
広げられたしなやかな愛らしい指先。
大きく軋むと太く鋭い獣爪が取って変わり、少女の艶やかな麗躯を瞬時にして凶悪な巨躯の外装骨格に組み上げる。
絶対零度の氷刹さながらに硬質化する銀毛は全身を怜悧な白刃の刀剣に至らしめ、見定める者をたちどころに絶望の阿鼻へと誘う。
すべてを奈落へ引き裂かんと開かれる猛狗の大顎。
連なる冷酷無情の魔牙が鈍く煌めくのは、これから刺し砕く生贄を求めるかのよう。
怒重と共に踏み出し、大地を抉る堅牢な豪足の鉤爪。
地上を薙ぎ払うように振るわれる巨大な鋼鎚の剛尾。
それは怒れる獅子。
それは餓えた狼。
それは絶対の捕食者。
それは終焉と絶望をもたらすもの。
命ある者すべて等しく喰らい尽くす嘆きの主にして暴君。
畏怖を体現する造形とは裏腹に射光に照らされる美しい姿は幻想的な風貌を醸し出す。
魂を刈り取るため降誕した死の天使。
輝く白銀の魔獣が巨肢の腕を地に穿つ。
巨首の頭蓋を反らし起ち、その大きな喉元を震わせる。
さも冥府の底から木霊する嘶きで対峙する敵対者に向けて高らかに宣告する。
汝に齎されるは不変の真理。
汝に訪れるは悔恨の末路。
汝に下されるは必絶の審判。
————断罪の咆哮。
燻ぶり荒ぶる熱波が奔る赤銅の業火を、その獣裂の眦に宿し、今此処に魔形鳴動の異能者が顕現せしめた。