コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.24 )
- 日時: 2016/11/19 10:05
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: YAHQda9A)
—20 秩序、混沌 その身に満たすものは
辺りに満ちるは晩秋の静寂。
荒涼とした風刹が浚い、撫で擦る。
流れるように梳き、大きくたなびく銀飾の麗髪。
白蘭の少女がひとり佇む。
その足元には散雑された機械片。
光を閉ざした瞳を晒す半壊した頭部が転がる。
その訴えるような空虚な眼差しを、先程まで相争ったサイボーグの少女だった残骸を一瞥したアンリは失われた筈の右腕、再生構築された手でそよぐ髪を押さえる。
「・・・敵殲滅を確認。任務完了。終わったわ、怜薙兄さん」
勝利を収めたにもかかわらず、特に悦びを現すでもない平然とした口調で己の兄に通信するアンリ。
「ああ。確認した。よくやったよ、素晴らしい働きだ。アンリ」
軌道衛星のモニターから始終を視認した怜薙は静かに微笑むと無惨に食い散らかされた獲物の切れ端を画面越しに見やる。
大戦時、頭角を現したネオ・ナチスの残党勢力組織『機甲鋼鉄師団』。
今も昔も変わらず世界の支配権を己が独占しようと企む闇の団体『最後の大隊(ラスタバタリアン)』。
その組織の構成員のほとんどが機械化されたサイボーグということが知られているが実体はほぼ謎に包まれている。
今回の様に潜兵を送り込んで横槍をいれるという事は無かったのだが、どうやら彼らも本腰を入れてきたようだ。
「怜薙兄さん」
怜薙が考察しているとアンリの声が呼び掛ける。
「うん? どうしたんだい、アンリ」
「・・・まだ終わってないみたい」
安息の束の間の一時、渓谷のそそり立つ崖上の頂上。
鋭い視線を投げかけ見上げるアンリの純銀色の眼。
緩やかに注ぐ射光の反射に遮られた影が三つ。
「へぇ〜。あっさりやられちゃったよ、アルスラちゃん」
小柄な影の少女が感嘆したように言う。
「ふん。所詮は9番台のソルジャーナンバーズ。下から数えた方が早い軟弱者には些か荷が重かったようだな」
背の高い影の少女が腕組みして不遜げに話す。
「まあ、彼女の本来の機能は偵察、斥候よりの能力ですし、今回は少々スタンドプレーの度が過ぎた結果ということでしょう」
中ぐらいの上背の影の少女が、さも当たり前の事のように言うと、他の二人より一歩前に進み出て崖下の此方を睨み据える白銀の少女を見下ろす。
「これは・・・!? ジャミングは強制解除したはずだが・・・。だがしかしツァバトの索敵レーダーには反応は無い。画像モニターにも一切映りこまない。・・・アンリ、気を付けろ。敵は未知の能力を持っている可能性があるぞ」
慌てた様子で機材群を操作する技術者たち。
しかし怜薙は新たに出現した謎の介入者に対して冷静に警戒を顕し、アンリに促す。
「ふふふ。どうも初めまして。ネフィリムの死神さん。アルスラから多少なりとも聞いてると思いでしょうが、私たちは機甲鋼鉄騎士団の者です。本日は私たちの姉妹が大変お世話になったようなので、御挨拶に伺った次第でございます」
黄金蜂蜜色のハニーブロンドの長い巻き髪をクルリと翻し、中心に立つ全身機械のアンティーク人形のような見目美しい少女が深々とお辞儀を慇懃に交わす。
「アンタ随分面白い能力を使うじゃないか。それが噂の超技術『獣合化術』ってヤツなのか。なかなかイカしてるぜ」
ダークブラウンの髪をワイルドに逆立てた長身のサイボーグの美少女が興味をそそられたのか身を乗り出す。
「凄いね〜。一体どういう仕組みなのかな? 詳しく調べたいな〜。解剖したら何か解るかな?」
パステルピンクのツインテールの美少女がキラキラした純真そうな大きな瞳を輝かせ、小柄な機械のボディを晒す。
「・・・それで? 今から追悼戦、敵討ちでも始めると言うの? わたしは一向に構わないけど」
アンリは飄々とする態度の少女たちに冷たい殺気を向けると僅かに両手のナイフを身構える。
「あらあら。そんなに警戒する必要はありませんわ。私たち戦うために顔を見せに来たわけではございませんの。さあ、御紹介して」
縦巻きロールの少女が傍らの少女たちを促す。
「ああ。オレはイゾルデ。イゾルデ・ゼクスト。宜しくな、死神」
ニヤリと不敵に微笑むイゾルデと名乗る長身の少女。
「アタシはマルティナ。マルティナ・フィンフィーだよ〜。宜しく〜、アンリちゃん」
無垢な笑顔を称えるマルティナと名乗る小柄な少女。
「そして私がブリージダ。ブリージダ・フィーアノースと申します。三人皆、機甲鋼鉄騎士団に所属。『ラスタバタリオン(最後の大隊)』に籍を置いております。以後、よしなに・・・」
にこやかに微笑を浮かべ会釈を行うブリージダ。
囁々と愛らしい囀りを溢し、獲物を見繕うような猛禽類の瞳を細めた。