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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.25 )
日時: 2014/12/26 22:48
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 83yASpp9)

 —21 戦士の休息、平穏の在り処

 




 荒野を走る複数の武装車両に囲まれ並走する大型トラック。

 内部では心底疲れた顔を晒した手負いの一人の兵士と少し離れた座席でスヤスヤと静かな寝息を立てる少女がいる。

 その少女に歩み寄り、懐から取り出した上質そうなハンカチで薄く汚れた寝顔の頬を優しく拭いてやる眼鏡の青年。

 とても愛おしそうに微笑みながら。

 その表情は類いまれない愛情に溢れており、微笑ましい光景の筈なのだが歪な違和感が何処かに漂うのは気のせいか。

 「・・・なんなんだ、『それ』は・・・?」

 異質な、まるで別の何かを見ているかのような兵士が微睡む少女に甲斐甲斐しく世話を焼く青年に小さな声で呟くように問う。

 「君は運が良い。『死神』に魅入られても生き残る事が出来たのだから。誇るといい」

 青年、枢木怜薙は先の戦闘で生還した兵士に一瞥もくれず応える。淡々と目の前の少女の汚れを拭う手を止めない動作に狂気に似た情慕をも感じさせるものであったのを近くで見ていた兵士は感じ取った。

 「・・・ッ」

 そして同時に其処は踏み込んではならない領域であることを理解した。

 関わっていけない。まだ正常で在りたいならば。

 決して触れるべきではない、と。

 兵士は思った。

 戻ったら故郷くにに帰ろう。兵業は辞めて両親の残した畑で百姓でもしよう。

 兵士は忘れる事にした。

 絶対に忘却できない悪夢を脳裏に焼き付けて。

 無理矢理に。


















 荒れた大地の路面に車両が揺られ、微睡む少女、アンリ。

 数刻前、己と対していた者たちが思い浮ぶ。

 












 「・・・戦わないの? じゃあ目的は何? まさか唯本当に見に来ただけ?」

 怪訝そうに上方を見上げるアンリの先には三人の機械化された少女たち。
 
 「まあ、大体そんな処です。それと斃されたとはいえ、姉妹の亡骸を回収しないわけにはいきませんから」

 ブリージダが当然と言わんばかりに微笑み答える。

 途端空間がぶれる。

 「!?」

 錯覚ではない、実際に異様な感覚を捉えた。

 何かが起きた。
 
 時間にして僅か数秒も無い、瞬時にその場から飛び退いたアンリ。
 
 「ほう。オレの『能力』を知覚したのか。流石だな」

 「!!」

 いつの間にか先程アンリが居た場所に長身のボーイッシュな少女イゾルデが立っていた。

 しかもその手には半壊したアルスラの頭部が無造作に鷲掴みされていた。

 アンリは直ぐに両手のナイフを閃かせ眼前の敵に斬りかかろうと構えたが、どうした訳か、その挙動を見送り自身の背後に目線を配る。

 「・・・妙な手品を使うみたいね。種は何かしら?」
 
 「ふふふーっ! 内緒だよ! 言ったでしょ? アタシたちは戦うつもりは無いって・・・だから、武器は納めたほうがいいよ。どうしてもって言うなら相手してあげるけど・・・」

 攻撃体勢のアンリの真後ろに小柄な少女マルティナがニコニコしながら牽制すように屹立する。

 「まったく・・・むやみに挑発してはいけませんわ、二人とも。失礼、死神さん。妹たちはどうも血の気が多くて扱いには苦労してますの」

 はにかむブリージダが、崖の上からゆっくりと地上に降り立つとイゾルデからアルスラの頭部を受け取る。

 「このまま貴女たちを見逃すと思う・・・?」

 アンリから濃厚かつ凍える冷たい殺気が沸き立つ。

 「互いに“本気”で戦う、となるとどちらも無事では済みそうにありませんわね。・・・御遠慮願いましょう、今の所は」

 ブリージダが困った様に迷順した後、妖しくも獰猛な笑みを作るとアンリの視界に一瞬“ノイズ”が奔る。

 「!! チィッ!!!」

 鋭い軌跡を描き、宙を薙ぐ二刃。

 アンリは躊躇することなく二対のナイフで薄ら笑いをする少女を切り裂く。

 しかし、そこには誰も居らず虚しく刃が煌めいただけだった。


 「危ない、危ない。そう慌てずとも何れ近いうちに逢い見えますわ」

 遥か上空から少女たちの声がする。

 「今回は様子見だからな。その時が愉しみだぜ」

 「今度はちゃんと遊んであげるからね」

 三人の少女はそれぞれ背中の翼を展開し、高速で離脱していった。

 アンリは少女たちが消えた空をしかめ面をし、いつまでも睨んでいた。
 


 微睡みながらも場景を思い返す。


 再び己の前に現れたならば、その時は・・・必ず・・・。