コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.30 )
- 日時: 2015/09/02 22:02
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: eldbtQ7Y)
—25 超越
ザワザワと空気が波打ち、怯え震える。
チリチリと熱を帯び、焦がし焼く。
殺気か闘気か、ドーム状の殺伐とした白い部屋を満たしていく。
その熱に中(あ)てられたように、周囲の者たちは唯々、視ているしかない。
それを発する根源の銀色の少女、アンリを中心に空間が奇妙に撓(たわ)み始め、歪曲する。
「どちらが本当の狩人なのか・・・」
魂を塗り潰す闇の光りを瞳に湛え、命の終わりを宣告する無慈悲な『死神』。
血に塗(まみ)れた両腕を左右に大きく広げる。
銀の長い髪が重力の法則に逆らい舞い上がり、ドームの照明に反射し煌めく。
「————身を以って知るといいわ」
瞬間、少女のか細い体躯を瞬く間に伸び上がる銀の触糸。
受けた傷を修復するように、少女としての在るべき肉体を武装するように。
連銀の瀑布が、その四肢すべてを包み込んだ。
「・・・凄いっ。これがオリジナル“キマイラ細胞”の適格者・・・!」
ガブリエラは眼下の様子を食い入るように防護窓から覗き見る。
研究者、探究者、好奇心、嫉妬心様々入り乱れた表情で。
「直に視るのは初めですか? ・・・まあ、仕方ないでしょう。今に至るまでオリジナルの適格者は唯ひとり・・・特別なのですよ、“彼女”は・・・」
怜薙は眼鏡の奥の瞳を僅かに細める。
そう、唯ひとり。
皆、息絶えた。
壮絶な実験の果てに、多数の幼い命は糧となった。
そして、それらを産み出した者たちも。
『・・・グ、グゥッ!! コレガ“死神”・・・ッ!!!』
『・・・本物ノ、破壊者・・・ッ!!!』
双虎の猛獣に身を宿す対する少女たち、ファエル、リエル。
自分たちの“力”には絶対の自信がある。
ママ、ガブリエラから与えられたコピーキマイラ細胞。
それは幼い子供でしかない己らに絶大な“力”をもたらし、世界を変革さしめるものだった。
あらゆる武器、火器すら己らには無力。
まさに無敵、まさに超人。
どんなに武装した幾人もの兵士も赤子を手を捻るか如く、蹴散らす。
世界を動かしているのは自分たち。
そう思わせる程に付与された“力”は素晴らしかった。
しかし・・・。
今、目の前の『アレ』は・・・。
一体————
白々と呼気を吐く巨大な何か。
身の丈は五メートルを優に超すソレは白銀の体毛を全身に靡かせ、重く低く呻る。
紅い。
血潮を垂らしたような、紅い眦。
白銀という暗やみの中で、ひと際その光りが増した。