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- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.31 )
- 日時: 2015/09/16 13:28
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: CwTdFiZy)
—26 畏怖
「後ロダッ! ファエルッ!!」
木霊すリエルの叫び。
「ッッ!?」
本能が危険を察知し、反射的に前方に飛び出すファエル。
そのギリギリの射線上、後方何もなかった空間を強烈な殺気が浴びせられ掛けると同時にドームの白い床面が粉々に砕け散る。
一瞬だけファエルが振り向くと、先ほどまで自分がいた場所が大きく穿かれ、抉れたクレーターが形成されている。
破砕した床面の粉塵が漂う中に巨大な銀狼が此方に視線を這わせるのが視えた。
死の呪詛をたっぷりと帯びた紅い眼孔。
ファエルの全身にドッ、と形容しがたい汗が噴き出る。
直後、噴煙を突き破り、矢の如く現れる蒼い虎の獣。
妹リエルの襲撃に己を縛る戒めが解ける。即座に同調し、ファエルが赤い獣の躰を旋回して佇む白銀の巨獣に攻勢に転じる。
交差する蒼紅の影が白銀の巨体の獣を打ち据え、動きが止まっているその身にひたすらに猛撃が叩き込まれる。
「ふふ、うちの子たちが圧倒的に有利のようね。流石に多勢に無勢もあるでしょうけど。いくらオリジナルでもあの子たちの双子ならではのコンビネーション攻撃には手も足も出ないみたいじゃない?」
ガブリエラが優越に浸る顔で眼下を見下ろしながら、隣で同じ光景を覗く青年に話す。
「・・・そうですかね? 僕には彼女たちが、如何せん決着を逸っているかのように窺えるのですが・・・」
淡々と静かに語る怜薙。
「? どう見ても私の娘たちが優勢ですわよ。『アイオーン』にも一目置かれる戦士、ラ=ファエルとウ=リエル。共に『デミウルゴの爪牙』と呼称されるほどの逸材。貴方の妹『ネフィリムの死神』にも勝るとも劣らない能力者。あの子たちがそんな訳・・・」
顔を顰めるガブリエラ。
だが、確かに何処かおかしい。
あの調子で能力を行使し続けては早々に限界点を超えてしまうだろう。
後退するリエルと入れ替わりに前進したファエルが自身の操る鋼をも切り裂く爪刃で無数に切り裂く。
そして続けざまに、リエルが猛烈な勢いで突進し、研ぎ澄まされた牙を巨狼の首元に一閃、喰らい付かせ抉る。
一分の隙もない、凄まじいまでの連携攻撃であった。
防御を固める暇(いとま)も与えない、まさに猛襲。
如何に強靭な戦車の装甲でさえも、あっという間に破壊する。
それ程までの強力な攻撃の嵐。
だが、それを悠然とすべて受ける魔狼。
まるで何事も無いように。
言い知れぬ“何か”がファエルとリエルに流れ込んでくる。
繰り出す己の爪と牙が白銀の体毛に包まれた巨狼に打ち込まれる度に、身を苛む亡霊となって襲い来る。
それまでの自分が矮小で、取るに足りない存在だと感じてしまうような、圧倒的なエネルギーの奔流とともに。
そして、その力の中心にわだかまるどす黒い“何か”こそが、人のものとは全く異質な、接触しただけで凍り付いてしまいそうな冷気を帯びた————目の前の物体。
おそらくは対峙した者、皆すべてこの感覚を味わっていたのだろうと彼女たちは思った。
人間が、いやどんな生物でさえも努力、進化してもたどり着けない高みを易々と超えていく圧倒感。
本能が理解し、絶望と諦観が支配してしまう領域。
それでも、それでもこの攻撃の手を休める訳にはいかない。
彼女たちを突き動かす理由。
————己が在り続ける存在の証明。