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- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.32 )
- 日時: 2015/09/19 08:11
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jFPmKbnp)
—27 異端の翼、片翼の羽
『キマイラ細胞』。
有史以来、傲り高ぶる人類が世に齎した究極の成果、悪魔の産物。
その恩恵は、あらゆる細胞組織を形成変化させ唯一無二の強大な戦闘力を与える。
しかし、この細胞に適合する者は十代以下の若者たちであり、数多の子供たちが世界平和の礎という名目のために実験台となった。
奇しくもオリジナルの細胞を持つ者はただ一人の幼い少女を残し、研究者は、その少女の兄を除いて全員の死亡が確認されている。
残された幾ばかりの研究資料と少女の持つオリジナル細胞片から新たに造り出すことに成功したものが『CC細胞(クローニングキマイラ)』である。
従来のオリジナルの細胞より、変異組織との適合性を緩和し、柔軟かつ、形成変化に伴う暴走性の危険を抑えた新しいタイプの完成。
その適合資格者として、もっとも高い親和性を得たのが、ファエルとリエル、二人の双子の少女である。
統治機構『アイオーン』、傘下である特殊武装組織『エグリゴリ』。
研究機関の上位監督者ガブリエラ・ミカールが彼女たちの上司であり母親なのだ。
ガブリエラ本人の遺伝子からクローン培養され、熾天使(セラフ)の名を冠するラ=ファエル、ウ=リエルと名付けられた。
二人の人造の天使たちは生まれながら、DNAに『CC細胞』を組み込まれている。
そこに至るまでに多くの犠牲が伴ったのは言うまでもなく、彼女たちは科学者らの多くの期待と思惑を背に誕生した。
それは生みの親であり、自身らの母親でもあるガブリエラとて例外ではなかった。
幼いながらも自分たちに注がれる幾多の視線は痛いほど理解していた。
人間としてではなく、生体兵器としての存在。
それでも自分たちを必要としてくれるならば、化け物だろうが実験動物だろうが構わなかった。
自分たちを己の娘のように、子供として接してくれる母親がいてくれるならば。
例え、それが偽りの関係であり、演技だったとしても。
ファエルとリエルは幸せだった。
狭い世界という箱庭の中で己らの力が絶大なものと確信していたから。
自分たちが力を振るえば、ママが喜ぶ。
それだけで良かった。
しかし、本能は告げる。
より巨大な絶対者の存在を。
遺伝子が呼びかける。
自分たちの細胞が悲鳴を上げて、恐怖するのを。
オリジナルキマイラ細胞を有する者。
偽物と呼ぶ研究者がいるのを知っている。
母親が自分たちを冷めた目で視ているのを分っている。
『デミウルゴ(偽神)』の造り出した模倣品(イミテーション)。
認めない。
認めてはならない。
自身の存在を否定する存在を。
許さない。
許してはならない。
自身の意志を脅かす意志を。
排除するのだ。
己の在り処を獲得するために。
今度こそ本当に自分たちを“視”てもらうために。
脅威を消し去る。
・・・邪魔者ハ、要ラナイ・・・。