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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.33 )
日時: 2015/09/19 11:34
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jFPmKbnp)


 —28 力の渇望








 雄大な巨躯を誇る白銀の狼は、自分の周りで飛び交う二頭の蒼紅の虎を一瞥し、僅かに口元を広げて静かに息を吐いた。

 『・・・何ダカ、身体ガムズ痒イト思ッタラ、羽虫ガ二匹モイル』

 銀毛の魔狼と化したアンリが抑揚の無い、それでいて美麗なボイスが紡がれる。

 瞬間、振りぬかれる銀の前肢。

 撫でるように繰り出された獣の拳。

 しかし明らかにこの場の誰にも捉えることが出来ないスピードで中空で攻撃態勢に移ろうとしたリエルの胴体に直撃し、ドームの壁面まで躰は弾き飛ばされて激突した。

 『グハァアアァッッッ!!?』

 『リエルッッッ!!?』

 突然吹き飛ばされた妹に驚愕し、目を見張るファエルの視界に白銀の影が映りこみ、鈍重な衝撃が全身を余すところなく貫いた。

 『ガフゥウァアッッッ!!?』

 鋭い鉤爪に四肢を引き裂かれ、床一面に叩きつけられファエルは鮮血を吐き噴いた。


 銀装の体躯をしならせ、アンリが一歩前足を踏み出す。

 床面の亀裂に埋没し咽せ伏せるファエルに近づき押し潰すように掌を掲げる。

 『マ、待テ・・・ッ! オ前ノ相手ハ、アタシ、ダ・・・ッ!!』

 よろよろとふらつきながら鋭い咆哮を放つリエルにアンリが目を細め見やる。

 『・・・ソウ。ナラ、貴方カラ、ネ』

 『・・・ッ!!』

 冷ややかな声が発せられ、隕石でも振ってきたのかという衝撃の波が迫り
全身の体毛を逆立てたリエルは咄嗟にその場から飛ぶ。

 遅れて地面が銀の獣によって無残に砕かれ瓦礫と化す。

 『・・・敏捷性ハ、マアマア次第点。デモ些カ注意力ガ疎カ・・・』

 アンリの眼は既に回避した先のリエルを収めており、爪拳の切っ先が緩やかに獲物を攫おうとしていた。

 『サセルカッ!!』

 同時に、紅い虎が凄まじい勢いで滑空し、アンリの背後から襲い掛かる。

 『・・・自己治癒力ハ合格点。スタミナモ申シ分ハナイ。ケド・・・』

 しなやかな白銀の剛尾が床に穿たれ、瓦礫の山を薙ぎ払う。

 『グッ!?』

 夥しい床面の建材物が破片となり礫の雨がファエルに飛来する。

 致命となる物はかろうじて躱す。他は装甲並みに耐久性を持つ獣皮で瓦礫の攻撃を全身で受ける。

 『ファエルッ!! ウゥッ!?』

 悲鳴にも似た叫びで瓦礫の礫を食らう姉の身を案ずるリエルに地を抉りながら突貫する魔狼の爪が迫る。

 『・・・気ヲ取ラレスギ。仲間ノ身ヲ案ジルノハ良イケド、ソレ以上二自身ノ現状ヲ把握スルベキ』

 リエルは肩口から肉を削がれる感触を感じながらも、身を素早く捻り、襲い来る豪爪から勢いのまま跳躍し後方へと逃れる。

 

 












 「そんな、リエルとファエルがあれほど苦戦するなんて・・・! 私が造り上げた『CC細胞』は決してオリジナルに引けを取らないはず・・・!! 一体、何故・・・っ!?」 
 
 防護窓に噛り付くように身を預け、捲し立てるガブリエラ。

 それを興味を示さず、一瞥たりともしない怜薙。

 「・・・貴女方は、本当の意味で理解していないのでしょうね。本当に恐るべきは忌むべき“力”ではなく、それらを世に産み出した“人間(ひと)”の“業”、なのだと・・・」

 呟くように溢す言葉は隣で激昂する女には届くことは無かった。

















 『ハア・・・ハア・・・』

 『フウ・・・フウ・・・』


 
 佇む白銀の魔狼を挟むように対峙するファエルとリエル。

 二人とも全身から鮮血を垂らし、呼吸すら儘ならない。

 シュウシュウと傷口が泡立ち蒸気が煤煙さながらに上がる。

 しかし、その自己再生頻度も落ち、四肢に入る力も心持たず立っているのがやっとの有り様だった。



 絶望的な状況であった。



 幼いながらも圧倒的な戦闘力を有し、自分たちと同じように『CC細胞』の適格者を幾度となく退けた。

 数多くの敵を仕留めてきた。

 高い知能と圧倒的なパワーを併せ持つ彼女たちに敵う者など微塵も存在しない筈だった。



 だが、それは存在する。

 今、眼の前に。

 本能の奥秘かに縫い込められた感情。

 畏怖であり、恐怖であり、諦めであり、嘆きでもある。

 このままでは、己らはただ屠られるのを待つのみだった。

 理不尽。

 低い呻りを上げ眼前の魔狼を見れば、静かに此方をじっと見詰めている。

 あざけりとも違う、哄笑されるならまだしも自身たちの存在をまるで関知していない、どうでもいい眼差し。

 自分たちの存在など、はなから歯牙にもかけていない。

 圧倒的なまでの差による途方もない距離感。

 一矢も報いることができない口惜(くや)しさが血潮が零れる咢を強く噛み締めさせる。






 憎い。 憎いっ! 憎いっっ!! 憎いっっっ!!!



 狡い。 狡いっ! 狡いっっ!! 狡いっっっ!!!



 恨めしい。 恨めしいっ! 恨めしいっっ!! 恨めしいっっっ!!!



 羨ましい。 羨ましいっ! 羨ましいっ!! 羨ましいっっっ!!!




 自分たちにも、自分たちにも同じ“力”さえあれば・・・!!!。


 


 それは本能に抗い理性を貪るように焼き切る。






 “憎悪”となって。