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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.34 )
日時: 2015/09/20 09:37
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: GTJkb1BT)

 —29 堕天







 『憎イ・・・オ前ノ存在、スベテガ・・・ッ!!!』

 『認ナイ・・・ヨリ優レタ種ハ、アタシタチ、ダッ!!!』


 ファエルとリエルふたりの言葉が連なる。

 暗澹としたふたりの気配の変化にアンリはすぐに気付き、その身を低く屈める。


 何だ?

 この嫌な感じは。

 こう、脳の奥底に響く・・・いや、違う。

 訴えかけているのだ。

 畑は違えど、同じ“種子”を持つ者の存在。

 遠い記憶が蘇える。

 いつも心が欲していた。

 戦え、と。

 喰らえ、と。

 戦い、喰らい、蹂躙し、貪り、己が血肉となせ、と。

 身を突き破り今にも躍り出そうな飢餓感。

 似ている。

 その感覚に。

 己の内に潜む凶悪な意志。





 『『グゥオォオオオオオォォオオオオオオッッッ!!!!!』』



 
 アンリの思考にかぶさるように、けたたましく凄まじい咆哮がドームを研究所全体を揺るがした。

 視線の先にいつの間にか二頭並ぶ虎を模す獣。

 その二頭が突然大きく牙を剥き、喰らい付いた。

 己たちの肉体を。

 互いの躰を貪り始めたのだ。


 『!?』

 











 「な、何を・・・! ファエル!! リエル!! 何をしているの!?ま、まさか活動限界の細胞の暴走!?」

 驚愕するガブリエラ。 
 
 「これは・・・お互いを食っている? いや、違う。取り込んでいる・・・“融合”しているというのか」

 興味深そうに眼鏡の奥の瞳を光らせる怜薙。

















 地響き鳴動するドーム内に立ちこめる粉塵が視界に降り注ぐ。

 煤煙の向こうに、巨大な影がゆらりと蠢く。

 続く叫びが衝撃波となって、瓦礫の壁を砕き、轟音のトンネルを木霊させる。

 ずしゃりと空洞を通して、身を起こす巨獣の姿が徐々にはっきりと見えてきた。

 双眸から憤怒の炎をたぎらせ、長い鼻先から蒸気のような息が白く噴出する。




 黒い。

 ゆらゆらと揺らめく巨大な黒い鬣。

 十メートルはあるだろうか物体の塊。

 まるで黒炎を纏ったかのように全身が燻ぶり波打ち、形を変えながら蠢いていた。

 あまりにも巨大な、不気味さを持つ黒い獅子。

 かろうじて獣の原型だけは留めているのが解る。











 アンリの表情がわずかに曇る。

 あの瞳。

 そこにどれだけの感情が秘められているのか、アンリには痛いほど判った。












 憎悪の雄叫びをあげ、破壊の衝動を解き放つ、ふたりの少女だった成れの果ての虚獣。

 咆哮をあげ、身を震い、黒く蠢く肉塊の足を踏み出す。

 一歩、また一歩と踏み出すたびにドームを振動が揺るがす。

 伸び上がる体躯がブチブチと筋組織を引き千切りながら異臭と異音をない交ぜに無理矢理自己修復を繰り返しながら歩く。

 すでに限界を超えてるのが傍目で理解出来る。

 故に互いの細胞を強制的に融合させ補ったのだろう。

 再び虚獣が咆哮を放った瞬間、揺らめく肉体から黒い触肢が形成され無数に生えてきた。


 『!!』

 
 無数に伸びて襲い来る形容しがたい肉塊の触手。

 アンリは全身の白銀の体毛を瞬時に超硬化させ、複数の刃の鎧骨格で覆う。

 飛襲し埋め尽くす触肢。

 黒の群れに銀の閃光がほとばしると、瞬時に木っ端微塵に打ち斬り裂かれ黒い泡の芥となり果てた。



 『!? コノ細胞片ハ・・・』



 打ち砕いた触手の欠片がアンリの銀装の体躯に触れると、じゅわりと嫌な音を立て熔解させたのだ。


 アンリはいまだ蠢く触手群を一瞥するとともに鋭利な眼光の切っ先を真っ直ぐに黒い虚獣に向ける。




 『『・・・邪魔モノハ消ス・・・存在ヲ認メナイ・・・』』



 聞こえたのは怨嗟をともなう濁った声だった。