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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.36 )
日時: 2015/09/23 22:21
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: xDap4eTO)


 
 —31 彷徨う残影









 ファエルとリエルは歓喜した。

 ついにこの時が訪れたのだと。

 僅かに残った理性の片隅で、最大の障害となる仇敵が傷つき血を流しながら身悶えるさまを喜々として認識していた。

 とうに自身が制御できる獣合化術(ビーストアクト)の限界点を超えてしまったことなど微塵も知りえない。

 憎しみと怒りのあまり一卵性ゆえの遺伝子配列に『CC細胞』が暴走を起こし変化して、彼女たちの意識と肉体を融合させてしまったのだ。

 新たに構成された巨大な身体はとても扱いやすく、またファエルとリエルのふたりを満足させるに十分な“力”を有していた。

 この“力”を最大限に利用すれば、自分たちがもっと、生みの親、母親であるガブリエラの役に立てると思った。


 『『・・・ママ・・・ママ・・・アタシタチ、トッテモ強クナッタヨ・・・モウ誰ニモ負ケナイヨ・・・』』


 全身から凄まじい異臭を放ち、生きたまま腐りながら崩壊と再生を繰り返す肉体を誇らしげに目線の高さより下となった防護窓から見下ろす虚獣。

 その姿は幼い子供が親に褒めてもらおうとしているかのようだ。

 狂気。

 まさに狂おしいまでの愛情。



 「嗚呼・・・なんでこんなことに・・・。私が開発したCC細胞は失敗だったというの・・・? もうお終いだわ、あの子たちは遠からず自身の細胞に食い尽くされて自壊する・・・何年も実験し、何度も研究した結果がこんな結末なんて・・・」

 頭を抱え、力無く項垂れるガブリエラ。


 
 暴走する虚獣。

 猫がネズミをいたぶるように、玩具を与えられた子供のように目の前の獲物を弄ぶことに夢中になる。


 『『アハハハ! 死ンジャエ!! サッサト死ンジャエ!!!』』

 
 残る理性も徐々に失われ、肉体を構成する細胞も形が保てなくなってきている。

 どろどろと、不定形の軟体生物が跳梁するように様々に姿形が安定していない。

 アメーバのように不気味に蠢きながら、予測不可解な攻撃の嵐。

 その只中(ただなか)を紙一重で回避しながら迎撃を繰り返すアンリ。

 だが、その面差しには、焦りも、諦めも、微塵も窺えなかった。
 
  
  
 「・・・ミス・ガブリエラ。貴方は研究者としてはとても優秀なのでしょう。その類まれな探究心が何よりも貴方自身の才能の裏打ちされた結果だと思いますよ。故にCC細胞も誕生させた・・・しかし、それだけでは無いでしょう。貴方が残したものは、それだけでしたか?」

 長い髪を項垂らせるガブリエラに静かに語り掛ける怜薙。

 「見なさい。憎悪に取り憑かれた可哀そうな獣を。あの子たちは自身のしがらみよりもより役目に忠実に在ろうとし、故に苦しみ、求めたのですよ」

 「・・・求めた?」

 淡々と意味深に語る怜薙の言葉に少し顔を上げるガブリエラ。

 「家族、とは、かけがえのないものです。例え、血の繋がりが無くても常に身近にあり、感じあえる・・・そういう存在を貴方も知っていると思いますが・・・」

 振り返った怜薙は優しい微笑み見せた。

 ガブリエラは眼下で暴れる黒い虚獣に視線を移した。

 「・・・ファエル・・・リエル・・・」
 
 グズグズと燻ぶる腐った巨大な肉塊が振り向く。


 『『ママ? ママ? どこ? あれ、見えないよ? 真っ暗だよ・・・』』


 何かを必死に手繰り寄せようと肉腫をもがき這いまわせる虚獣。


 『『ママ・・・ママ・・・』』

 
 その醜い塊の元はふたりの可愛らしい少女だったとは、この現場に立ち会っていなければ夢にも思わないだろう。


 
 何かを探して蠢く。


 まるで迷子になった幼子が泣き喚くように彷徨っていた。