コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ‐ ブレイジングダンスマカブル‐ ( No.37 )
日時: 2016/03/06 11:32
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: AdHCgzqg)


 —32 未来を切り拓いて













 朽ちかけた虚獣の咆哮が研究施設全体を震わせる。

 怜薙は小さく息を吐き、眼鏡を押し上げて言う。


 「・・・このままでは施設全体が崩壊してしまいますね。仕方ありません、アイオーン幹部の末席に連なる者として非常事態権限の行使を敢行します」

 
 怜薙の言葉に伏せていた顔を上げるガブリエラ。

 
 「・・・どうやって暴走したあの子たちを止められるの? 自然自壊するまでにまだ時間があるわ・・・無理よ。貴方の妹さんでも止めることは・・・」


 ガブリエラが眼下を見て自嘲気味に話す。

 現に今も枢木怜薙の妹、アンリは孤軍奮闘で戦っているが、傍から見て折り合いが悪く防戦一方だ。

 完全獣化状態で戦っても、リエル、ファエルの融合変異体とは力の差が歴然としているのがよく分かった。

 どれだけの兵隊が応戦しても既存の火器では事態の収拾はつかないだろう。

 そういう風に創られたのが彼女たち『エグリゴリ』の兵士なのだから。


 これ以上事態を悪化、深刻化させないために自分たちがなんとかして被害拡大を止めなくてはならない。

 最悪、地下の施設内を封鎖するしかない。

 
 「・・・アンリ。聞こえているかい? 僕は今から非常事態権限を君に対して発令する」


 拡声マイクでアンリに話しかける怜薙は苦々しく顔を曇らせる。


 「・・・本当は・・・君には、こんな『力』は・・・使ってほしくなかったんだが・・・」


 怜薙の懺悔するような声に重なるように鈴がなるような凛とした可憐な声が響く。


 「私は大丈夫。だから命令して、兄さん。いつものように」


 全身を銀と赤の鮮血で染めた狼が迷いない眼差しで怜薙を見上げていた。

 
 「・・・すまない、アンリ」


 聞こえるか聞こえない程に呟いた怜薙が唇を強く噛むと、その表情が強く決意し変わる。


 「・・・アンリ。これは命令だ。眼前の敵を殲滅しろ。 ・・・『バーサーカーモード』の強制解除を許可する」







 怜薙の放つ豪令が轟く。






 静かに眼を瞑り、その時を待っていたアンリ。






 「・・・了解。 『バーサーカーモード』強制解除・・・」





 ゆっくりと開く双眸。

 



 「・・・これより、ターゲットを・・・」






 力強く、彼女が宣言する。












 
 「————殲滅、する」