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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.4 )
日時: 2015/09/19 08:33
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: jFPmKbnp)

—4 永銀(とこがね)の愛我





 近代技術の粋を集結させて構築された世界の平和と繁栄を象徴し先駆ける最先端モデル都市『新・東京』。

 その優美で広大な建造群を取り巻く高速道路のハイウェイを滑走する黒塗りの特注型リムジン。長い車体の後部スモークウィンドウから憂鬱げに外の景色を眺める銀髪の美少女。
 
 服装は貴族子女が通う女子学生が着用する学院指定のブレザー制服を身に付けている。淡い薄若草の柔らかそうな生地がこの少女の美しさをよりいっそうに際立たせ、映えさせていたが、少女はどこか不貞腐れたような、憮然とした表情をたたえていた。

 少女の正面の向かい側の席に眼鏡の青年が苦笑いを浮かべ、困った様に眼前のご機嫌斜めの愛しい天使をどう宥めようかと手をこまねいていた。

 「・・・アンリ。機嫌を直してくれないか? 僕もまさか次の任務をキャンセルされるなんて思ってもみなかったんだよ。さすがに『本部』の決定には従わざるを得ない」

 青年のすまなそうな声にそっぽを向いていた少女は視線は外を視たままポツリと呟く。

 「・・・別に。怜薙兄さんは悪くない。悪いのは私の狩場を荒らし、獲物を横取りした泥棒猫二匹・・・」

 少女アンリは髪と同じ銀色の瞳を細め、その奥に静かな、しかし獰猛な殺意の衝動を燻ぶらせていた。

 少女の放つ剣呑な重圧にやれやれと心の中で溜息を吐きつつ青年、この少女の兄を名乗る男は腕時計をチラと見やると誰ともなく言う。

 「・・・そろそろ本部に到着する時間か」

 そして青年は先程の朗らかな面持ちから一変、冷徹かつ真剣な眼差しで少女に話しかける。

 「いいかい、アンリ? 『彼女』等に逢っても決して『殺』さないようにするんだよ。そんなことをすれば組織に粛清され・・・」

 青年の言葉が終わらぬうちに遮るように少女アンリが小鳥のごとき小さい口を開き可憐な声質で話す。

 「心配しないで怜薙兄さん。そんな馬鹿な真似はしない。わたしは組織『エグリゴリ』最強の兵隊。・・・兄さんに迷惑は掛けない」

 少女から放たれる重厚なプレッシャーが薄れるのを感じた青年は再び穏やかな表情に戻り、少女に手招きをする。

 「おいで、アンリ」

 「・・・ん」

 青年の手招きで向かい側の座席に座っていた少女は席を立ち、青年の膝元にスッポリと腰を降ろした。

 青年は己に身を委ねる麗しい少女の麗美な銀の髪を撫でる。

 とても優しく、とても丁寧に、壊れ物を扱うように。

 指先に流れる極上の手触りの銀糸を梳く。

 「・・・愛しているよ、アンリ。僕は君を失いたくないんだ。どんな犠牲を払ってでも君を護りたい・・・」

 青年は少女の髪に顔を埋めてゆっくりと囁く。

 「・・・わたしも。怜薙兄さんを誰よりも愛している・・・」

 少女もより深く沈み込むように青年に己が身を預ける。








 傍から見ればまるで恋人同士の事情のごとく映るであろう。

 だがこれが彼女、彼等の愛情表現なのだ。

 ずっと昔から変わらぬ行為。

 幼き日より続けてきた儀式めいたもの。

 ふたりの間には固い、何よりも揺るぎ難い絆が結ばれていた。

 その結び目が解けることは無いだろう。





 例え死が二人を別とうとも・・・