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- Re: 世界の果てで、ダンスを踊るブレイジングダンスマカブル ( No.40 )
- 日時: 2016/11/16 21:24
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: l1OKFeFD)
—35 長い夜が明けて
アンリは己に武装された重厚なガントレットを切り裂くように左右に展開すると、その両腕に一瞬にして長大な剣が形成された。
銀幕のヴェールのごとく煌びやかに創られたそれらは、かつて彼女が愛用していた二対の刃。
「グルジエフ、ヴァンブレイブ。貴方たちの力を貸してちょうだい」
少女は愛おしそうに二振りの双剣に視線を落とし、次に鋭い眼で対峙する標的に移した。
『・・・オォオオオ・・・オオオオォ・・・』
黒い巨大な異物。
意味もなく咆哮を漏らすそれは最早本人たちの意志など残さず、蠢く醜悪な腐った肉の塊に過ぎない。
遅かれ早かれ時間が経てば細胞組織は劣化し、瓦解するだろう。
アンリの瞳が愁いを帯びる。
同じだ。
彼女たちは同じなのだ。
かつての自分と。
かつての自分たちと。
数多の実験の犠牲に散った幼い同胞たち。
彼ら彼女らにも在ったであろう未来へと続く道。
それを不毛に閉ざしてしまった歪んだ大人たちの欲望。
壊れた世界。
その壊れた世界を舞台(ステージ)にして踊る滑稽な人形(マリオネット)たち。
そして舞台裏で、糸を垂らす者共の思惑。
「・・・いいわ。踊ってあげる。この歯車が軋んで擦り減って音を立てて折れても舞台に幕は降ろさせない」
冷たい凝りが周囲を凍てつかせ、アンリは銀氷の双剣を掲げる。
「狂った世界に最高の幕間劇(フィナーレ)を用意してあげるわ」
『グゥオォオオオオオオッッッ!!!!』
アンリの放つ闘気に中てられたのか、リエルとファエルの成れの果ての黒い虚獣はいっそうけたたましい叫びを上げて襲いかかってきた。
虚獣の体組織が変異し無数の獣の牙を模し縦横無尽に広がり覆い尽くす。
襲い来る幾重もの牙に成す術も無く少女は飲み込まれた・・・
ように周囲には見えた。
間際に静かに閉じていた紅い水晶の瞳を開くのを見た者のは果たして居ただろうか。
誰もが少女の敗北と思いかけたその時、何かを切り裂く鋭い斬響が轟き、数秒後、眩いばかりの銀の閃光が奔った。
「!? 何が・・・!?」
眩い光に手で覆うガブリエラ。
「・・・」
ただ光を見つめる怜薙。
『グギャアァあああぁあああああっっっっ!!!!!!!!』
辺りをつんざき木霊す異形の悲鳴。
虚獣の内部から伸び上がり洩れ出る銀の柱。
そして虚獣は凄まじい悲鳴と共に真っ二つに裂け、左右に割れたのだ。
その発する光の中に双剣を構えた銀武装の美しい戦士の少女が佇んでいた。
『・・・ギュ、グァオ・・・アォオ、オ、オォ・・・』
二つに斬り裂かれた虚獣はジュウジュウと黒い蒸煙を噴き出しながら徐々にその巨体を崩れさせ崩壊していった。
霧散する少女たちだった黒塊。
限界を超えたキマイラ細胞に浸食され跡形も無く消滅するしかない運命だった少女たち。
ゆっくりと両手の剣を降ろすアンリ。
同じ定めを持つ彼女たちに自分が出来る事。
哀しみとも慈しみともとれる眼差しが己の眼下の足元にそそぐ。
その足元には生まれたままの少女たち、リエルとファエルが穏やかな呼吸音とともに静かに横たわり眠っていた。