コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊るブレイジングダンスマカブル ( No.41 )
- 日時: 2016/11/18 20:28
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 49hs5bxt)
—36 追憶と疑念と忘れかけた想い
コポ・・・・コポ・・・
メディカルバイオマシーンの養液槽に二人の裸身の少女が漂い浮かぶ。
薄緑色の培養液に満たされたカプセルの中で緩やかに呼吸を繰り返すファエルとリエル。
辺りには白衣の科学者たちが忙しなく複雑な機械群を操作し、逐一彼女たちの身体データを記録している。
「呼吸、心音、脳波、ともに異常無し。バイタルパターンの安全レベルの維持を確認、非常に安定してます。先刻の戦闘による損傷もすべて完治しています」
科学者の報告に後ろに控えていたガブリエラが安堵の溜息を漏らすとともに気になっていた疑問を口にする。
「・・・そう。肉体的損傷は問題ないわね。 ・・・それじゃ、あの子たちのCC細胞(クローンキマイラ)の状態はどうなの?」
そう疑問なのは彼女たちがこうして生存したこと。
ファエルとリエルは自身の限界点を越えた能力を行使した。
結果、細胞は肉体組織を変異させ、双子は己のコントロールを見失い暴走。
後は増殖と崩壊を繰り返し劣化していく細胞の自己破壊で彼女たちはこの世から消滅するはずだった。
消滅、死んでしまうはずだった。
本来ならば。
しかし、そうはならなかった。
「・・・それが、二人のCC細胞の許容確定値が以前と比較して数倍に跳ね上がっています。 なのに変異も暴走の兆しもありません・・・こんな事信じられません。 一体・・・」
科学者が在り得ないとでも言いたげに困惑気味にガブリエラに顔を向ける。
在り得ない事。
ガブリエラも当然思った。
なのに現実はこうして自分たちに予想だにしない事実を突きつけている。
一体彼女たちに何が起こったのか。
いや、自分はこれを成し得たものを知っている。
彼女たちと戦い、絶望的な状況を覆した銀白の戦士を。
オリジナルキマイラ細胞の持ち主。
枢木アンリ。
あの少女がこの子たちを救ってくれたという真実を。
いつ頃ころから失くしていた感情。
溢れ出る暖かい温もり。
初めて抱いた愛しかった子。
一緒に幸せになろうと誓ったあの人。
すべてを奪われた忌まわしい戦争。
怒りと悲しみの炎が己を焼き尽くしたこと。
そうして自分が持ちうる科学者の知識と力を結集して創り上げた最高傑作。
ラ=ファエルとウ=リエル。
この世のすべての争いの芽を摘むべく誕生した戦いの天使たち。
忘れていたのではない。
見ようとしていなかっただけだ。
あの子たちが自分を母と呼び慕う姿。
覚えていない訳がない。
置き去りにした幸福な日々を。
それを再び失うと思ったあの時。
怖かった。
自分は振り返るのを恐れていた。
「・・・ファエル、リエル・・・私は・・・」
ガブリエラの頬を雫が流れた。