コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.6 )
- 日時: 2014/08/24 03:54
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0voqWvLL)
—5 傀儡なる稀人
新・東京中央セクターにそびえ立つ巨大なセントラルビルディング。
煌びやかに彩られた構造で清潔感と絢爛さが一際目を引き、威厳と荘厳さに満ち溢れている。が、それとは裏腹に物々しい重武装を施した兵士がそこかしこに配備され監視の目を光らせていた。
「さあ、ようやく到着だよ。我らが居城、総本部『アイオーン』。 ・・・いや、この場合は『巣穴』と言った方が正しいかもね」
怜薙は皮肉げに薄く嗤い眼鏡のフレームを上げた。
「・・・ここは好きじゃない。研究施設があるから・・・『実験』を思い出す・・・」
その傍らに寄り添うようにアンリが怜薙の腕を抱き何処か苦しそうに辛そうに顔を俯かせ影を堕とした。
「・・・アンリ。車の中で待っていてもいいんだよ? 報告処理だけ済ませれば後はいつもように僕が君の定期検査を・・・」
その時、カツンと高いヒール音を打ち鳴らし人影が差し込んだ。
「あら? 貴方たちも本部に顔を出しに来ていたの? 珍しいじゃない?」
そこにはタイトなビジネススーツに白衣を羽織った長身のブロンド美女が立っていた。
そしてその女性の後腰に纏わりつくようにベッタリと密着する双子のワンピースの少女たちがジッと目の前のアンリを見据えていた。
「・・・ガブリエラ・ミカール。貴女も、ですか。・・・まだロシアに滞在しているかと思いましたが・・・」
ビルの反射光が怜薙の眼鏡を照らし出す。
その瞳の奥の表情を窺いしることはできない。
「ああ、反政府のテロ集団ね。殲滅に半日も掛からなかったわ。本当優秀すぎるの、私の自慢の『娘』たちは」
そう言って美女ガブリエラは愛しそうに二人の少女の頭を撫でさする。
「えへへ♪ ママもっと褒めて♪」
「うふふ♪ アタシたちもっと頑張るよ♪」
甘えるよう少女たちは破顔しすり寄る。
「あらあら、甘えん坊ねこの子たち」
ガブリエラは娘たちとしばしのスキンシップを楽しむと不意に怜薙たちに語りかけた。
「実は私たち新たな『キマイラ細胞』の開発に成功したのよ」
一瞬ピクリと怜薙の瞳に変化があったが直ぐに冷淡なものに戻った。
「・・・ほう。それはお手柄ですね」
「あまり驚かないようね。やはり先駆者の余裕というやつかしら?」
怜薙はにこやかに笑顔を作るとゆっくりと首を横に振った。
「いえいえこれでもかなり驚いていますよ。なにせオリジナルの細胞以来研究の成果が目ぼしくありませんでしたから。これで更なる科学の躍進が期待できますね。おめでとうございます」
怜薙の当たり障りのない贈答に興がそがれた様子のガブリエラ。
「・・・まあいいですわ。いずれ『本物』を超えてみせるから・・・行きましょう、リエル、ファエル」
チラリと視線をアンリに映すと白衣を翻して踵を帰し本部のホールへと歩む。
その後を双子の少女リエルとファエルが尾いて行くが唐突に振り返りアンリのすぐ前に走りより二人そろって肩を並べた。
「いい気になるなよ『死神』」
「必ずお前を超えてやる」
ギロリと睨み先程の無邪気さが嘘の様に殺気をぶつけてきたのだ。
まるで宣戦布告のごとく凄まれた当の本人アンリは先程から無表情な能面のまま双子を見据えていた。
だが、
「・・・貴方たちに『本当の狩り』を教えてあげる・・・」
アンリの銀光の瞳がスッと細まり可憐な薄桃色の唇から冥府の底から木霊する様な言葉が響く。
同時に濃厚かつ悍ましい気配が周囲を覆うと外温度が極度に低下し始めた。
「「!?」」
ビクリと大きく体を大きく震わせた双子の少女は逃げるように慌てて女性の後を追い掛けていった。
「・・・」
アンリはホールの奥へ消えた少女たちを見詰めていた。
「アンリ。やり過ぎたら駄目だよ」
怜薙が優しく彼女の肩を抱く。
「大丈夫。ちょっと躾けただけ」
そう言って銀麗の少女は僅かに微笑んだ。