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Re: 世界の果てで、ダンスを踊る ( No.9 )
日時: 2014/09/08 23:00
名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: lerfPl9x)


 —7 戦場という園に咲く花


 

 

 激砲が轟く。

 大地は抉れ粉塵が舞う、無数の銃弾が掠め数多の人間が果て逝く。

 狂気が支配し混沌が満ちる。

 此の世の地獄ともいうべき場所。

 そう、此処は『戦場』。

 













 
 ——『死』とは隣人のようなものである。

 当たり前のように存在し自分たちにも何時か訪れるごく身近な現象。

 普段無意識の片隅に追いやっているが、ふとしたことで『それ』に触れ、そして気付くのだ。

 そこに腰掛け、此方を見下ろしているものの存在に。


 昔、そんなことを書いた小説家がいたことを思い出した。


 その兵士は僅かに口元を歪めると自身が脇に構えるアサルトライフルの銃身を固定しその照準を眼前の敵兵に定めた。

 以前の自分なら何をそんなと、馬鹿らしいと一笑に付していただろうが、いまならそれが解る。

 ずっと近くに、こんなにも傍に『それ』はいたのだ。

 ただその存在を認識できていなかっただけだ。


 ——絶望を糧とし、恐怖と共に静かに、しかし確実に足元に這い寄る。


 何時くたばろうと己の人生に一片の悔いもないと思っていた。

 好き勝手生きてきた。

 傭兵に志願したのも金回りがただ良かっただけ。

 元々自国の一兵卒として務めていた時期があったから。

 自分の戦役の知識が生かせると思った。

 死ぬのが怖いと思ったことは無かった。

 その時が来れば自然と受け入れるものだと思っていた。

 違う。

 目の前にすればわかる。

 ただただ、それが恐ろしかった。

 狙い定め、ひたすらに銃弾を撃ち放つ。

 幾重にも無尽蔵に重なる必殺の飛礫。そのどれもが致命傷となり、対象の生命活動を即時停止させる効力を持つ。



 普通ならば。



 両の手に煌めく鈍色の二対の輝き。

 瞬きすら遅すぎる瞬光の剣閃。

 足元に散らばるひしゃげた合金の銃弾。

 必要最小限の微細な動作、刹那の間にすべての銃弾を叩き落とした灰色のコンバットスーツを着用した銀髪の少女。

 ゆっくりと此方にその焦点を向け、合わせる。

 銀色。

 その流れる髪と同じ白銀の彩色を讃え、ひとつの真実を己に確信させる。

 来る。

 紛れも無い絶対的な結末。

 此方にそれをもたらせるべくその歩を進める少女。

  
 想ってしまった。

 畏怖と共に。

 歩む少女の道すがらその一面は両断された同胞たちの亡骸の山。

 一歩、また一歩。

 己との距離が近づくたびに戦場にあるまじき感情が沸き起こる。

 すでにアサルトライフルの弾は無い。

 残す武器は弾数の少ない短銃と重たいだけのアーミーナイフ。

 最後の抵抗とばかり、ハンドガンとナイフを手に取る。

 勝てる見込みなど無い。

 勝てる訳がない。

 銃弾の雨を物ともせず、屈強な兵士たちを微塵に刻んだこの少女。

 恐怖だろうか、足の震えが止まらない。

 銃を向ける手すらままならい。

 目に映るチラつく両手のナイフがまるで死神の鎌を錯覚させるようだ。

 だが、視線を目の前の少女から外すことが出来ない。


 綺麗だった。


 そのあらゆるすべてが。

 まさに戦場に咲く一輪の花。 

 その銀の花びらが目にも止まらぬ速さで自身の喉元に食い込む一挙手一動を見詰めていた。

 己から別たれた自分の胴体を。

 宙に舞う首から。

 赤い鮮血を伴い、白銀の花の頬を濡らすのを。














 そうか、これが『死』か。















 この日初めてその意味を知った。