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Re: 海と空〜短編集〜 ( No.22 )
日時: 2014/12/25 09:51
名前: みにょ (ID: 3HjnwYLE)

1-3

その沈黙は、決して居心地のいいものではなかった。私まで泣きたくなるような空間。しかしその沈黙を破ったのは、俊平だった。
「池田に謝れ」
「……なんで私が謝るの?勝手に泣いてるだけじゃん」
我ながら最低で、子供っぽい言い分だと思う。胸の奥からズキズキと痛くてたまらない。
「違う」
俊平の冷静な声が誰もいない廊下に響いた。彩香ちゃんは嗚咽を漏らしながらもどうにかして涙を堪えようとしている様子だ。
明らかに悪いのは私なのに。なのに、認められないのはどうしてだろう。
「お前が池田を泣かした。お前が悪い」
当たり前のことだろと、俊平は私を真っ直ぐ見つめる。昔から優しく、どっちかというと、喧嘩をするより友達の喧嘩を間でなだめる立場だった彼の瞳はどこまでも純粋だ。私とは大違いだなぁと、私は泣きそうになる。
「なんで……?あんただって、あいつよく泣くよなって言ってたじゃん!なんであいつの味方するの?!」
私の頭はもうパニックだった。ここまで言ったらもう引き返せないだろうし、このまま悪になってやろうとさえ思った。
それでも。やっぱり彼は優しいから、私を悪にはしてくれない。
「俺はお前のこと、そこらへんのやつよりは知ってるいるつもりだ。だから、間違って欲しくない」
「……」
私は声を出せなかった。出したら一瞬で泣き出してしまいそうな気がしたから。それは負けたみたいで嫌だ。私はどこまでも子供っぽい。
「俺が気づけばよかった。悪い。でもな」
俊平は悪くない。そう言いたくても、泣きたくないからいえない私は彩香ちゃんより意気地なしだろうか。
黙ったままの私の頭を、俊平は優しく撫でた。
「お前が何に焦ってんのか知らねぇけど、それは多分、他人に向けてはいけないような気持ちなんじゃないのか?」
「でもっ……」
どうにかして絞り出した声さえも、言い訳として紡がれる。
最近、私は毎日のように自分の性格の悪さに嫌気がさしていた。友達に冷たいことを言ってしまったこととか、喧嘩してしまったこととかがぐるぐる回って、泣きそうになる時もあった。
それに私は、焦りを感じていたのかもしれない。
「でもじゃない。言い訳して、逃げてばっかで、それこそ見てるこっちがイライラする」
俊平の言葉は冷たかったが、声は暖かかった。思わず涙がこぼれる。
「ごめんなさいっ……。ごめんなさい……!!」
さっきの彩香ちゃんみたいに、私は涙を止められそうにない。俊平は俺に謝ってどうすると苦く笑い、私の背中を優しく押して彩香ちゃんの方へ向かせた。
謝らなきゃ。ごめんねって、言わなきゃ。
いざとなると震えて声が出にくいけど、泣き虫弱虫意気地なしの私をやめて、ありがとうとごめんねが言えるような、優しい人になりたいから。
謝らなきゃ……
「ごめんなさいぃ……!!ごめんなさい、彩香ちゃんっ……!ごめんねぇっ……!」
大粒の涙が、溢れて止まらない。私は小さな子供のように泣きじゃくり、彩香ちゃんも「私もごめんね」と言って泣きはじめた。
それを俊平がまた苦く笑って「なんで二人で泣くんだよ」と言って見ていたけれど、予鈴が鳴り、私たち三人は先生に状況説明をさせられたのだった。




今、友達との関係に不安を感じるあなたへ、このお話が届くといいな