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Re: 海と空〜短編集〜 ( No.27 )
日時: 2014/12/26 19:41
名前: みにょ (ID: 3HjnwYLE)

2-3

「……はぁ?」
わけがわからない。私は朝ご飯のパンを落としかけた。
「あのさ、私今受験生なんだけど」
そう、私は現在中学三年生。兄は大学生でバイトもしているけど、最近は勉強をしているところをあまり見ない。大学生って多分そんなもんなのだろう。
「だからこそだろ。息抜きも大切だ」
兄は自分の食器を片付ける。私は落としかけたパンを持ち直し、その後ろ姿に抗議した。
「なにいってんの?勉強しなきゃ……高校おちたらどうすんのさ!」
第一志望にはたくさんの友達が行く。中学も楽しいけど、高校ではもっと楽しめるようにしたいから、私は友達のいる高校を選んだのだ。
なのに、出かけたりしたら……。
「時間の無駄だよ……!」
正直、私は勉強に焦りを感じていた。
三年になって、みんなが受験受験と騒ぎ始めた頃。私もとにかく頑張った。テストでいい点を取れるように毎日勉強したし、予習や復習もちゃんとやった。風邪をひいた日も、友達に誘われた日も、色々なことを我慢して勉強した。
それでも、私は兄のように優秀ではない。
兄は高校を第一志望合格したけど、私はどうだろう。もしかしたら落ちるかもしれない。兄の得意な教科は英語と数学で、私が一番苦手な教科だ。
兄に負けたくない。そう思って頑張ってきたのに、成績はなかなか上がらなくて……。
みんな受験に追われてる。私だけ取り残されてる気分だった。
「時間の無駄ではないと思う」
兄の言葉に、はっと我に返る。兄はいつの間にかわたしの前の席に座っていて、コーヒーをすすっていた。いつ座ったのかもわからないくらい、私は考え込んでいたらしい。
「無駄だよ。今こうして朝ご飯食べてる時も、みんな勉強してるかもしれない」

そう思うと、いても立ってもいられなくなるんだよ、お兄ちゃん。

「人生に無駄な時間なんてない」
「……」
兄のそんな言葉を、私はずっと聞いてきた。なのに。
ずっとかっこいいと思っていたその言葉さえも、今の私には理解できない。
「でも、笑ってないのは多分もったいないだろ?」
しししと、兄が歯を見せて笑う。思えば最近、私はあまり笑ってない気がする。勉強ばっかりに気を取られて、家族との時間も減って。
「……いい場所があるんだ。今だからこそ、お前に見せたいな」
ぽんぽんと私の頭を撫でた兄は、どこか寂しげな顔をしていた気がした。