コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 海と空〜短編集〜 (なんか色々募集中) ( No.37 )
- 日時: 2014/12/29 17:58
- 名前: みにょ (ID: 3HjnwYLE)
4-2
運命の出会いというものを、私は信じたことがない。
運命とか、奇跡とか偶然とか。
そういうのを信じるくらいなら、自分でどうにかしなきゃいけないと思っていたのだ。
けど、こればかりは、運命を信じる他に方法はないと思った。
「大丈夫なわけねぇか」
どうやら、彼は自分の傘を盾にしてあの泥水から私を守ってくれたらしい。彼は自分のポケットからハンカチを取り出して、私に差し出す。初対面の人に、そんなことができるのだろうか。
私がそんな考えを巡らせて警戒すると、彼は私が受け取らないのを見てため息をついた。
「とりあえず拭いとかないと、風邪引くぞー」
呆れた声と表情で、彼は私の頬をハンカチで拭く。雨が少しずつ上がって行き、雲の間からは赤く染まった太陽が見えた。
「余計なお世話」
こういう人、イライラする……。
私は彼の手からハンカチを奪い取り、自分で拭いた。彼は驚いたような表情の後、「悪い」と後ろにさがる。
「なんであんな雨の中、傘さしてなかったんだ?」
彼の問いに、私はぎくっと肩を揺らした。今冷静に考えてみれば、私かなり恥ずかしいことをしていたんじゃ……?
見られていただろうか。泣いてしまった所とか、転んでしまった所とか。
「……まあいいけどさ。俺、すぐそこのじいちゃんちに泊りに来たんだ。シャワー貸せると思うけど、来る?」
私が恥ずかしさで黙り込むと、彼はそう聞いてくる。確かに今すぐシャワーを浴びたいが、見ず知らずの人の祖父の家でシャワーを浴びるなんて、そんな危険なことできない。
これが世に言う不審者という奴か?と意味不明な結論に至った私は、首を横に振った。
「あんたこそ、さっき濡れたでしょ」
いくら傘を盾にしていたとはいえ、私を守るために車と私の間に入ったのだから、彼は所々汚れて濡れていた。
薄手のパーカーには泥がつき、傘を使ったために髪は濡れている。その傘だって茶色くなっているのだ。
私は急に罪悪感に見舞われた。初対面の男の子に、何故こんなにも一喜一憂しなきゃいけないのかわからない。
「俺はすぐそこだから、大丈夫」
「ふーん……」
しばらく沈黙が続く。それを破ったのは、この町の五時を知らせる鐘だった。ゆっくりとした音楽がなり始め、彼は「あっ」と声を漏らす。
「もう行かなきゃ。じいちゃんが心配する」
彼は近くにある横断歩道を探し始めた。そして信号が青になっている横断歩道を見つけて走り出す。
「そのタオルはやるよ!じゃあな!」
「あっ……」
これが彼との、運命の出会い……だったんだと思う。