コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 海と空〜短編集〜 (なんか色々募集中)参照300突破感謝!! ( No.41 )
- 日時: 2015/01/02 20:32
- 名前: みにょ (ID: 3HjnwYLE)
4-5
一瞬の間だけ、全ての音が遮断されたようだった。何も聞こえなくて、死んだのかとも思った。
しかし少しずつ、サァァ……という雨の心地よい音が戻って来る。それに比例して意識もハッキリしていき、私は目を開けた。
そしてわかったのは、私の上には誰かが重なるように倒れこんでいるらしいこと。その誰かは私の頭を守ってくれていたらしく、コンクリートと頭の間には冷たく冷えた手が挟まれていること。ここはどうやら、私が渡ろうとした横断歩道のこちら側だということ。
「う……」
頭の整理が追いつかないうちに、誰かが動き出した。ゆっくりと、頭とコンクリートの間に挟んだ右手ではない方の左手だけで起き上がる誰か。
しかし左手だけでは力が足りなかったのか、誰かはフラついて濡れた地面へ倒れこんだ。
ぱしゃっという音が雨音に混じり響く。私はハッとして起き上がった。
「あ、あのっ……!」
大丈夫ですか。
そう声をかけようと思った。誰かの体を揺らして、意識を持ってもらおうと思った。
だが、私の手は誰かに向かわずに止まる。無意識に止まってしまったのだ。
「いってぇ……」
まるで、シャン……と鈴が鳴ったみたいだった。
それほどに、「彼」の瞳は、声は、姿は、魅力的だった。
「……なんで……?」
誰かは、一年前に出会ったあの彼だった。
「なんでここにっ?!」
悲鳴にも似た声を出して、私は後ずさる。すると彼はしばらくしてから、あぁ、去年の……とつぶやいた。
「なんでって……お前が道路に飛び出すから、走って助けてやったんだろ。命の恩人だぞ俺」
「えぇっ……?!」
ーーーーーーー危ないっ!!
あの時か。
私は記憶をたどって、色々と思い出す。やっぱり、追いかけた誰かは彼だったのだ。飛び出した私を、彼はわざわざ戻ってきて……。
「ご、ごめんなさいっ……!」
そうか、私、死にかけたんだ。今になって全ての記憶が元通りになり、私は恥ずかしさと罪悪感で咄嗟に頭を下げた。彼を追いかけて、トラックに引かれかけて、でも彼は私を助けてくれて。
再会した今日も雨で、私は迷惑をかけてばかり。
こんなの、嫌だなぁ……。
「お、おい泣くなよ……」
「だって……!私、去年も迷惑かけて、今年も、せっかく会えたのにっ……!」
彼は優しいから、座り込んだまま泣きじゃくる私の頭を撫でる。けど、それは多分他の女の子にも同じなのだろう。
それがどうしても悔しく、悲しく、虚しい……。
「……はあ……俺大丈夫だし、死んでなかったし、いいんじゃないの」
呆れたように、彼が言う。私はうつむいたまま答えた。
「でも、迷惑かけた……」
「死ななきゃいい。じいちゃんも言ってたんだ」
彼は立ち上がって、柔らかく優しい声で言った。顔を上げると、彼は横断歩道の向こう側を見ているようだ。その先は、おじいちゃんの家だろうか。
「……今年も、おじいちゃんの家に?」
「あぁ。毎年さ」
「うん……」
会話が続かない。本当はずっと話していたいけど、彼の傘は横断歩道の向こう側に落ちているから迷惑だ。私の傘はへし折れているし。
落ち込んでいると、彼は私の頭を最後にくしゃっと撫でた。
「じゃ、また来年な」
「うん……って、え?」
すでに彼は走って横断歩道を渡っていて、あの言葉だけが心に何度も響いていた。
ーーーーーじゃ、また来年なーーーーー