コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 序章 hum ( No.2 )
- 日時: 2014/06/05 09:06
- 名前: りお (ID: KDFj2HVO)
———人間とは、自分の運命を支配する自由な者のことである マルクス
——本当に宮野さんは子供みたいな人だ。
「どうしてそーいう方向に持っていきたがるんですか。女子高生でもあるまいし」
「あら、ありがとう」
「いやいや、誰も誉めてないですよ」
「私にはそう聞こえたのだけど、違った?」
「全然違いますけど……ウインクしなくていいんで」
いちいち律儀に突っ込む空遥に宮野はもー冗談に決まってるでしょ、と悪戯っぽそうに笑った。
「ファンの子達や外の大人には王子サマキャラなのに、私に対してだけ態度が今ドキの高校生なのは何でよ?」
「は?また唐突な……」
「前から訊こうと思ってたのよ〜」
——それは宮野さんが姉ちゃんみたいだから、つい素がでるんですよ。
「……とは口がさけても絶対に言わない。確実に調子にのるな」
ぶんぶんと頭を振る空遥は、ふとパソコンを見やる。
「あ、生放送終わってる。宮野さんが話しかけるから」
「大丈夫!動画にUPされてるから問題ないわ」
そう言って彼女は空遥のパソコンを勝手にいじりだした。
「これをクリックして……。どこまで見た?」
「………………。歌ってる最中までです」
この人にもう言っても無駄だと諦め、早送りされている動画を何気なく眺めていた空遥は、はっと軽く目を見開き声を上げた。
「宮野さん待って、少し前に戻って下さい!……そこから再生して下さい」
「ここ?」
カチッとクリックした宮野は不思議そうに、動画を視聴する。
いたって普通のステージ。が、突如幾つものバックライトが暗闇の中歌っているHami*を照らす。
『ッ!!?』
Hami*の肩がビクッと震えるのと同時に彼女は観客席に背を向けた。
伴奏が止まり、舞台袖からスタッフが数人走ってHami*の元へと駆けつけ、彼女と観客の間に立ちふさがる。
ふわふわの髪、華奢(きゃしゃ)な身体。
暗闇だったのではっきりとは見えないが、ライトによって彼女のシルエットが映しだされているのは確かだ。
予想外の事態に観客のざわめきが波のように広がる。
「アクシデント?」
宮野の呟きが空遥の耳に入った。
初のライブでアクシデントは災難だと空遥は内心同情した。しかも顔は出せない歌い手、どうするのか。
Hami*はそっとスタッフの肩を掴むと口を開く。
スタッフ達が頷くと彼女はマイクを持ちなおし、俯いた。
『———……今のは皆さんへドッキリです。びっくりました?』
スタッフの間から見えるHami*が微笑んでいるのがどうしてか空遥は分かった。
『そうだといいなぁ、ドッキリ大成功です。ふふっ』
彼女のおどけた様子に何だ、ただのドッキリかとそれまで動揺してざわめいていた場に笑いが起こった。
『私結構考えたんですけど、これが一番驚いてくれるかなって。……へ?こんなのベタすぎる?あはは、考えた自分でもそう思います』
彼女は意図も簡単にアクシデントを話題に変え、その場を盛り上げた。
——嘘だろ、これが素人の行動!?事前に打ち合わせをしたのか。いや、そうとは思えない。
空遥は愕然とした様子でパソコンを見つめた。
「凄いわね」
宮野もこの事に感歎したようだ。
「この子もしかしなくても……」
マネージャーの言葉を引き継ぐように空遥は紡いだ。
「歌唱力に判断力がずば抜けている。—……天才だ」