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Re: 陽の当たる部室 ( No.1 )
日時: 2014/06/09 22:46
名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)

一話 健康より原稿


世の中には、〝健康より原稿〟という有名な言葉がある。
原稿を完成させられない者には、何も与えられないのだ。
地位も、名誉も、何も与えられない。

これは、とある文芸部の物語——


「細谷ー!」
天羽中学校・文芸部。
旧校舎の端にある小さな部屋で、長い黒髪の少女が叫んでいた。
「ひぃぃ!」
怯えた顔で、色白の少年は少女から数歩離れる。
少女は自分より二十㎝は身長が高い少年の頭を叩いた。
勿論、椅子に乗って。
「細谷君、この原稿用紙はどういうことなのかしら?」
少女は、マス目以外は何も書かれていない原稿用紙を指さす。
「お、俺……ずっと体調が悪くて……」
「だから何? 健康より原稿! 与えられた仕事は最後まできちんとやりとげなさいっ!」
「い、いえっさー!」
少年——否、細谷陽介(ほそやようすけ)は敬礼をした。
「分かってるよね? 十ページ! 今日中に完成させてね?」
少女は、妖しく微笑んだ。


少女——秋里千沙(あきさとちさ)は悩んでいた。
それは、部員数の減少だ。
年々部員数が減っていき、今はもう四人になってしまった。
一人目は、細谷陽介。二年生。さっきの少年だ。
二人目は、高村玲(たかむられい)。同じく二年生。
三人目は——
「こんにちはー!」
文芸部の部室に入ってきたのは、三年生で部長の遠藤拓海(えんどうたくみ)。
拓海は出窓に寝転がると、
「秋さん、俺寝るから」
と告げ、安らかに寝息を立て始めた。
「私の名前は秋里千沙です! おやすみなさい永遠に」
怒った振りをしながらも、切ない顔で拓海を見つめる千沙に、気づく者は居なかった。

「……この鈍感」

千沙が呟いた言葉にも、誰も気が付かなかった。