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- Re: 陽の当たる部室 ( No.2 )
- 日時: 2014/06/09 23:04
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
二話 一昔前のヒーロー
「俺、参上!」
柑橘系の香りのワックスで髪を立てた少年が、部室に入ってきた。
「……まるで、一昔前のヒーローね」
千沙は、吐き捨てるようにそう言った。
そして、クスリと微笑む。
「お帰り、れーちゃん」
〝れーちゃん〟と呼ばれた少年は、満足そうにうなずいた。
「ただいま戻りました、千沙先輩!」
れーちゃん——否、高村伶(たかむられい)は、ホットココアの缶を千沙に手渡す。
「ありがとう。いやー、まだまだ寒いもんねー」
暦上は四月とはいえ、まだまだ寒い。
そう呟いた少女は、ココアの缶を開けた。
「あー、美味しい……」
一口飲み、ほっとした顔の千沙は、ふと拓海が寝ている出窓を見た。
「拓海先輩、受験生なんだよね……?」
「そうみたい、っすね」
陽介は原稿用紙と睨めっこしながら千沙に言った。
「そーいえば、千沙先輩って拓海先輩のこと好きなんですよね?」
千沙が、ココアの缶を落とした。
しかも、制服のスカートの上に。
ココアが飛び散り、本来なら叫ぶはず。
しかし、熱さなど感じぬといわんばかりの表情で、千沙は缶を拾い上げ、部室の隅にあるゴミ箱へ投げた。
そしてハンカチをブレザーのポケットから取り出すと、スカートや太ももを拭く。
「……何故、それを」
「そりゃあ見てれば分かりますよー」
ニヤニヤと笑う玲と陽介。
「でも、千沙先輩、彼氏居るんじゃ……」
「浮気されてるみたいだわー」
「えぇっ!?」
玲は椅子から立ち上がった。椅子が倒れる。
「あんなに仲良かったのに……毎日迎えに来てるのに……?」
「うん。だから、少しだけ〝お話〟しようと思って」
うふ、と千沙は微笑む。
玲と陽介は真っ青な顔で千沙を見ていた。
そんな二人に、千沙は耳打ちをした。
真っ青な顔で、二人は首を縦に振った——
「千沙ー! 帰ろうぜ!」
坊主頭で大柄な少年が、野球バッドと大きなエナメルバッグを持ち、部室の前に立っていた。
「うんっ! じゃあ、また明日ね。れーちゃん、陽介!」
時刻は、午後八時を回っていた。
「さ、さようなら〜」
「お、お疲れさまでした〜」
二人は顔を見合わせると、同時に呟いた。
「女って怖い」