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- Re: 陽の当たる部室 ( No.4 )
- 日時: 2014/06/10 16:46
- 名前: 藍里 ◆dcuKuYSfmk (ID: IfRkr8gZ)
四話 別れ(後篇)
重苦しい沈黙が流れる。
その沈黙を破ったのは、拓海だった。
「もー、秋さんたち酷いよー」
「……ピッキングは犯罪です、先輩」
拓海に見られたくなかったから、千沙は扉に鍵をかけて居た。
「……あ、これ、返すね」
千沙は左腕からブレスレットを外した。
金色のチェーンに、貝殻やフォーク、ヒトデなどの金色のチャームが付いた、華奢なブレスレットを。
「これ、裕也が初めてくれたんだよね。去年行った、修学旅行の帰りに」
「これ買うの、恥ずかしかったー。でも、千沙の為に選ぶの、すごい楽しかった」
「……ありがとう」
裕也は、ブレスレットを握りしめた。
「それ、裕也が捨てて。……私には、捨てられないから」
弱弱しく、千沙は微笑んだ。
「……分かった。最後に、言い訳してもいいか……?」
千沙は頷いた。
裕也は弱弱しく、微笑んだ。
「俺、すごい寂しかった。千沙、甘えてくれなかったし、一緒に帰っても文芸部の奴らの話題ばかりだったから……」
「……うん」
千沙は目を伏せる。
「だから、浮気なんかしたんだろうな。ごめんな、千沙。俺……千沙のこと好きだったのに……」
「私こそごめんね、裕也。私、裕也のこと大好きだったよ」
千沙の瞳から、大粒の涙が流れた。
「ごめんな、千沙。本当にごめんな……」
今にも泣きそうな顔で、裕也は千沙の頭を撫でた。
「……ううん、もういいよ」
泣きながら、千沙は笑った。
「……今までありがとう。さよなら」
千沙は涙を拭き、とびきりの笑顔を作った。
「俺こそ、今までありがとう。……愛してた」
裕也も笑い、千沙に背を向けた。
そして、部室を出た。
「……幸せになってね」
後ろ手に扉を閉めた裕也に、その言葉が聞こえたかどうか、定かではない。
裕也は小さくうなずくと、そのまま見えなくなった。
「……あー、疲れた!」
足音が遠ざかると同時に、千沙は涙を拭き、笑って見せた。
「れーちゃん、陽介。私、喉乾いちゃった。ココア買ってきて?」
「Yes,sir!」
見事な発音で二人は言うと、部室を飛び出した。
その瞬間、再び千沙の瞳からは涙が流れた。
「……本気だったんだ? 彼のこと」
「当たり前です。大好きでした……」
無茶苦茶に、千沙は涙を拭った。
「……千沙」
「拓海先輩、初めてですね。まともに名前呼んでくれたの」
「そうだな、千沙」
ぱぁ、と千沙の顔が輝く。
「ありがとうございます、拓海先輩。そして、これからもよろしくおねがいします!」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
拓海と千沙は、顔を見合わせて笑った。
四月三十一日。
ひとつの恋が終わったと同時に、一つの恋が芽生えた。
この気持ちは、一人の少女以外気が付いていない。