コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 想いの終わり ( No.166 )
- 日時: 2016/04/21 22:07
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: fE.voQXi)
——ずっと好きだった。きっと、この気持ちは変わらないと思っていた。君が傍に居るのが当たり前で、僕が君を想うように、君も僕を想っていると信じて疑いやしなかった。
想いは儚くて脆い。あぐらをかいてしまえば、いつの間にかそこには何も存在していなかったかのように、日々の中へと消えていく。
一体どれだけの時間、君の事を考えたのだろう? 脳裏に浮かんでは消え、浮かんでは消え。毎日がその繰り返し。
「おめでとう! 幸せになるんだぞ〜!」
「綺麗だよ、お幸せに!」
むせかえるような新緑の香り、周囲を緑にかこまれた石畳の上、教会を背に歩く二人に向けて祝福の言葉が飛ぶ。
光沢のある黒のタキシードに身を包んだ男と、純白の衣装に彩られた彼女。僕は少し離れた場所から二人を目で追う。
高く澄み渡った空から降り注ぐ暖かな陽光は、まるでこの日を待ち望んでいたかのようで、少し憎らしくも思えた。けれど、そんな嫉妬という負の感情は、彼女の笑顔を見ているとすぐに霧散する。
彼女を幸せにする。僕には出来なかった事を彼がやってくれた。彼女の笑顔、その笑顔を見ているだけで、僕は満たされた気分になる。だから彼には感謝の念すらあった。これはただの強がりなんだろうか? もっと好きだと伝えれば良かった。もっと愛していると伝えれば良かった。そうしたら、きっと違う結末になったのかもしれない。僕だって、全くそんな事を考えない訳じゃない。
けれど、幸せそうに笑う彼女を見ると、そんな考えは今この場では相応しくないのだろう。
「——せーの」
彼女の掛け声とともに、ブーケが青空に吸い込まれるように舞うと、歓声が上がる。
式も終盤。もうここに居る意味なんてない。僕はゆっくりと目を閉じる。青の眩しい世界は暗闇へと変わる。不意に込み上げてくる、胸を締め付けるような感情が、切ない雫となって零れ落ちた。
僕が君に最後に贈る言葉。これが本当に最後だと、自分自身に言い聞かせるように震える声で言葉を紡ぐ。
「今までありがとう……本当に、君の事を愛していました」
喧騒が僕の声をかき消す。きっと今の言葉は彼女に届く事はないし、何かを期待して言ったんじゃない。僕の自己満足の言葉。でもそれで良い、それが良い。
その想いが僕に向けられる事がなくなっても、僕の幸せは君の幸せなんだから——
〜END〜