コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

とある男子校生の日常【1】 ( No.2 )
日時: 2014/08/29 19:25
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

 
 俺、大泉 誠(おおいずみ まこと)には、悩みがある。高校生の思春期男子としては切実な悩みだ。
 その理由は——

「ハァハァ、待ってよ! せめて一回でいいから。話しを聞いて!」

「謹んでお断りします! 俺はノーマルなんです! それと、一回って何すか!?」

 夕闇の中、道を聞かれて親切に教えていたら、その尋ねてきたガチムチマッチョの男に追いかけられながら、学校帰りのフルマラソン。俺を追いかけてくる相手の男は、白色でピチピチのタンクトップに、黒色のピッタリスパッツ、日焼けした筋肉質で褐色の肌が汗で濡れている。
 この状況だけでも暑苦しいが、夢でも幻でもなく、これは現実。
 どういう訳か、俺は男に好かれる。それだけならまだいいが、迫られる。もう本当に泣きたい。

「話しを、話しを聞いてくれ! 悪いようにはしない! 怖いのは最初だけだから!」

「既に超絶怖いです! あと、最初だけってなんすか!? お婿にいけなくなる!」

 住宅街を必死に駆けながら、しなくてもいいツッコミを入れる。きっと周りからは異様な光景に見えるだろう。高校生男子、ガチムチマッチョと鬼ごっこ、なう。
 そんなつぶやきなんてされたら、シャレにならん。ただでさえ、『大泉君ってBでLな人なの?』とか『男の人しか愛せないんだね』とかクラスの女子に誤解されているんだから。

 
「俺はノーマルだぁぁぁ!!」

 全力疾走しながら沈みゆく夕日に向かって、叫ぶ青年(俺)の主張は閑静な住宅街に響き渡った。


 ***


「兄さん、本当にマジでやめてよね。私、兄さんと兄妹って恥ずかしくて言えないんだからね」

 ガチムチマッチョなお兄さんを、なんとかまいて家に戻れば、我が妹様こと葉月はづきが、自慢の艶やかなサイドポニーの黒髪を揺らしながら、ギロリと睨めつけるような視線で俺を見てくる。
 それはもう、視線で人を殺せるんじゃないかというレベルだ。いや、マジで。

「仕方ないだろ? 逃げなきゃ俺の大事なものが失われてしまう」

「別に、兄さんの大事なものの一つや二つ、あげたらいいじゃない」

「お前は、俺にトラウマを抱えて生きていけとおっしゃいますか?」

「大丈夫、兄さんタフだし。強い子だもの」

 ……何でそこで視線を逸らして遠い目をする。身内にそんな事言われて兄さんは悲しいよ。
 つまるところ、葉月が言いたい事はこうだ。同じ学校に通う妹としては、兄が奇声をあげながら男に追いかけられている所を見て、『あれ、うちの兄さんなの』とは恥ずかしくて口が裂けても言えないって事な訳で。学校内では、絶賛他人のフリ中な訳だ。
 そりゃあ、俺だってあんな事したくないよ? でも仕方ないじゃない、引き寄せちゃうんだもん。グスン。

「とにかく、学校では話しかけないでよね。私まで変人扱いされちゃうから」

「……お兄ちゃん悲しい」

「自分でお兄ちゃんとか言わないで。キモイから」

 葉月のゴミを見るような、冷気を帯びた視線が俺に突き刺さる。まさに踏んだり蹴ったりである。どうしてこうなった?

 (続く)

とある男子校生の日常【2】 ( No.3 )
日時: 2014/08/29 19:27
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

「よう、誠〜。聞いたぜ、また男に追いかけられたんだってな」

「ニヤニヤしながら言うなよ。こっちは切実だっての」

 一夜明けて、登校して教室に入れば悪友の野上 圭介(のがみ けいすけ)に冷やかされる。小柄な体躯に、クルクルと内側に巻き込むパーマがかかった圭介は俺の気持ちなどつゆ知らず、からかう気満々だ。

「良いじゃねぇか! 声をかけてもらえるってありがたい事だぞ?」

「じゃあ、今すぐ代わってくれ。光の速さで!」

「それはさておき……」

「さておいちゃうのかよ! ってか、自分で振ってきてスルーすんなよ!」

 圭介と話していると、疲れる。こんな感じで会話が続くもんだから、最後の方はいつもグダグダになり、最終的に何を話したのかわからなくなってしまう。
 まぁ、それも楽しいっちゃ楽しいからいいんだけど。

「なはは、湊が心配してたぞ。そろそろ誠がそっちに目覚めるんじゃないかってな。一応、肯定しといてやったぞ」

「冗談は頭だけにしてくれ。鳥の巣頭」

「ちょっ、おまっ!! これはオシャレだ!」

 圭介が何か言ってるが、全力でスルーさせていただく。
 まったく、笑えない冗談だ。圭介はともかく、みなとにまでそんな事言われるなんて。そうこうしている間に、予鈴が鳴るのだった。


 ***


「うん、圭介から聞いたよ。誠、ついに目覚めたんだってね」

「目覚めてねーし、話しが捏造されてる」

 放課後、俺の幼なじみであり、想い人でもある、鈴原 湊(すずはら みなと)と下校しながら、昨日の出来事の弁明をしていた。正直なところ、湊にあらぬ誤解をされたくない。ただでさえ、湊とは一歩踏み込めない距離感があるってのに、その上に男好き疑惑が真実って認識されてしまったら、確実に終わる。
 てか、圭介の奴め、明日覚えておけよ。

「なーんだ、やっぱり冗談かぁ」

 そう言って、少し残念そうに肩をすくめる湊。
 夕日に照らされた綺麗な栗色ショートの髪が風で揺れる。整った顔立ちに、バランスが取れた細身の体型。昔から見ているけど、ここ最近でさらに可愛くなった。それこそ、いつか誰かに取られてしまうんじゃないかと、ヒヤヒヤするくらいに。

「あ、当たり前だろ。俺は困ってんだよ」

「ふーん、じゃあさ、私に良い考えがあるんだけど?」

 湊はそう言うと、俺を覗き込むように上目遣いの視線を向けてきた。まるで新しいイタズラを思いついたような、そんな子供のような無邪気な瞳。

「な、なんだよ?」

「私が誠の彼女のフリしてあげよっか?」

 そのセリフを聞いた瞬間、この世界の全ての時間が止まったような感覚に陥った。

 (続く)