コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 魔法のパン【8】 ( No.47 )
- 日時: 2014/09/27 00:40
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: kcj49vWg)
——私の考えが甘かった。と言うか、ちょっと考えれば誰でもわかる事だよね。山田くんとは同じクラスなんだから、当然、教室も同じな訳で。
結果、昨日と同じような事が学校内で再現されていた。チャイムが鳴った瞬間にダッシュで教室を出て、山田くんと鬼ごっこ。と言っても、もちろん普通に競争していては敵うはずもないので、よっちゃんに協力してもらい山田くんの足止めをしてもらってなんとか逃げてきたんだけど。
「せっかくの休み時間なのに、こんな所でお昼なんて……」
青空の下、私は地面にハンカチを敷いてそこに座りながら生徒立ち入り禁止の屋上で、ひとり寂しくサンドイッチを頬張っていた。生徒立ち入り禁止とはいえ、鍵がかかっている訳ではないため入る事はできる。ただ、その事を知らない生徒が多いし、来ても何があるというわけでもないので基本的に誰も居ない事が多い。
屋上に吹きつける涼やかな秋風が私の頬を撫でていく。ちなみに今日の具材はハムとレタス。からしバターをパンに薄く塗って、ハムとレタスを挟んだだけのシンプルなサンドだ。今回はお母さんが作った食パンを使わせてもらった。……あの小麦粉を使って、またトラブルが起きてしまっては困るので今は使っていない。味は最高なんだけど、効能っていうか、副作用のせいで間違っても異性に食べさせるわけにはいかないんだよね。そういえば、よっちゃんに昨日の事も含め、その事を話したら「五十嵐くんに食べさせればいいのに!」とか「てか、五十嵐くん香織に気があるよ。絶対!」とか言ってたなぁ……。
「そんなズルはしたくないし、それに——」
五十嵐くんは優しいから勘違いしそうになっちゃうけど、あれは私だけに向けられたものじゃないんだよね。きっと、私じゃなくて他の誰かでも五十嵐くんは躊躇うことなく助けただろう。そういう人なのだ、五十嵐くんは。……優しいって罪だなぁ。
大きなため息をつきながら空を仰ぐ。どこまでも広がる青空は雲一つなく、今日も快晴だった。
——ガチャ
不意に屋上の扉が開く音がして、私は無意識に身構えて逃走体勢に入る。まるで肉食動物が近づいてきて反応する小動物のように、身体が勝手に反応していた。
「青葉さん。俺も一緒させてもらってもいいかな?」
「……へっ? い、五十嵐くん」
扉を開けて入ってきた人物は、爽やかな秋風のような笑顔の五十嵐くんだった。今まさに私の思考に出てきていた人だっただけに、すこしテンパってしまう。
なんでここに五十嵐くんが……?
「うん、よっちゃんさんからここに居るんじゃないかって聞いてさ」
よっちゃんさんって……。なんだか富士山さんみたいな言い方だなぁ。五十嵐くんのその言い方がおかしくて、私はつい吹き出してしまう。
「……ふっ、ふふふ。あはははっ!」
「何かおかしかった?」
「ご、ごめん。五十嵐くんの言い方がちょっとおかしくて……ふふっ」
五十嵐くんはそんな気はなく普通に言ったんだろうけど、それがちょっとおかしかった。
でも、あまり笑いすぎるのは良くないよね。反省。
「良かった。青葉さん昨日は少し元気なかったから。青葉さんの笑顔が見れて俺も嬉しいよ」
責めるわけでもなく、問いつめるわけでもなく、五十嵐くんは柔らかく微笑んでそう言った。不意打ち気味のその笑顔に今度は一転、ドキッとしてしまう。
その笑顔は、ほ、本当に、反則だよ……。
「青葉さん、良かったら今日も一緒に帰らない? 山田に追われながら帰るには大変でしょ」
「えっ、で、でも、五十嵐くんに迷惑かけちゃわない?」
昨日の今日で五十嵐くんにそんな事を頼んでしまっていいんだろうかという申し訳なさが先に来る。もちろん、五十嵐くんが一緒に帰ってくれるならそんなに心強い事はないんだけど……。
「気にしないで。俺が青葉さんと一緒に帰りたいだけだから」
もしかして五十嵐くんは、て、天然なのかなぁ。こんな事言われて勘違いしない人が居るなら見てみたい! ってくらいのセリフだけど。好意的に解釈してもいいんだろうか。
ううん、そんなはずないよね。それは置いておくにしても、こうして帰りに付きあわせちゃうんだから、理由というか、原因は五十嵐くんに話しておくべきだよね。……まぁ、まだそれは推測なんだけど。
「……い、五十嵐くん、実はね——」
私は山田くんが追いかけてくるようになったであろう原因を五十嵐くんに話す事にした。
(続く)