コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- とある男子校生の日常【3】 ( No.6 )
- 日時: 2014/08/29 19:38
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)
「彼女、彼女になってあげようか? だって! 何それ、俺死ぬの?」
あの湊のセリフを聞いた後、頭が真っ白になって、あの後どんな話しをしたのか、どうやって帰ってきたか記憶があまりない。どうやら余程テンパってたらしい。
それでもなんとか家に着いて、緩みきった頬を家族に悟らせないよう必死に堪えていたが、自分の部屋に入った途端、破顔した。
ちなみに湊は『フリ』と言っていたが、今だけはその言葉を脳内編集にてカットさせていただいて、何も考えず喜びに浸らせてもらおう。
「いやぁ〜、今日ほど生きてて良かったと思った日はないな!」
ベットに寝転んだまま、壁に連続ヘッドバット。うん、痛い。しかし痛いけど、痛くない。
——ガチャ
「ちょっと、兄さん壁ドンやめてよ! 勉強に集中できな——キモ」
「おいっ! お前部屋に入る時はノックくらいしろよ。それと、入って俺の姿を見た瞬間、キモイって言うな」
枕に顔をうずめて両足をバタバタさせていたのを見られて、葉月のゴミを見るような視線が鋭い刃物のように心臓をえぐってくる。いつもなら傷ついているところだが、今日の俺はひと味違うぜ。ビバ、リア充ライフ!
「ふふん、まぁいいか。そんな些細な事で腹は立てませんよ。今までの俺とは違うからな。何でか知りたいだろ?」
「どうでもいい。本当にどうでもいいけど、ドヤ顔やめて。イラっとする」
「相変わらず、お前は俺に容赦ないよね!?」
……こんな事で傷ついたりしないよ? ちょっと泣きたいなんて思ってないんだからな。
「まぁ、聞け。いや、聞いて下さい。お願いします」
そう言って、立ち上がって地面に額がくっつきそうなくらいに腰を折り、懇願する。
妹に頭を下げる兄の図。名を捨てて実を取る男だよ、俺は。まぁ、この場合の実はなんなんだって話しなんだが。
「……はぁ、なによ?」
葉月は諦めたような、『仕方ないなぁ』という嘆息混じりの表情をしながらも、話しを聞いてくれるようだ。
その証拠に俺の机の近くにある椅子に腰をおろす。
「実はな——」
俺は葉月にこれまでの経緯を話した。俺が男に好かれる事で悩んでいる事、それを湊に話したら、湊が彼女になってあげようかと言われた事、その提案に喜んだ事。(実際その時は夢うつつのような感じで、時間が経つにつれて喜びがこみ上げてきたんだけど)
一通り話すと、葉月は大きな溜め息をついた。
「あのね兄さん、それ冗談だと思うよ? だって、湊さんみたいな可愛い人が兄さんと、たとえ冗談でも、フリでも、強要されたとしても、付き合おうなんて思わないし、しないよ」
「……葉月、とりあえずお前が俺の事を嫌いだって事は、よーーーっくわかったよ。いや、知ってたけど再確認した」
『冗談でも』のあたりからマジ顔で強調されていて結構へこむ。俺のさっきまでの威勢&高揚感カムバック。
「別に兄さんが嫌いな訳じゃないよ? ちょっとウザいなとか、キモイなとか、面倒くさいなって思うだけで」
「それ、オブラートに包めてないからな? 遠回しに嫌いって言ってるからね」
真面目な顔とトーンで言われるから、なおへこむ。ちなみに、葉月は俺と同じく湊と小さい頃から面識があり、仲が良いというほどではないが、名前を出せば性格がどうとか、容姿がどうとか、いちいち説明する必要はないくらいには知っている。
「兄さんは黙ってればいいのに。……顔は悪くないんだから」
「はっ?」
「ううん、何でもない! とにかく、湊さんは兄さんの事からかってるんだよ。兄さんだって、その後話してないんでしょ?」
「そりゃあ、まぁ」
すっかり失念していたけど、俺は湊に明確な返事をしていない。葉月が言うように冗談だったとしたら『昨日の事なんだけどさ〜』って聞いて『何それ? 冗談に決まってるじゃん』なんて言われたら、俺はもう立ち直れない。真っ白な粉になって、風に飛ばされたい気持ちになるだろう。そう、千の風になる。
「明日聞いてみたら? どうせ、兄さんが恥かくだけだと思うけど」
「…………」
その後、数時間前のテンションとは打って変わって、奈落の底にいるような気分で落ち込む事になったのだった。
(続く)