コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- とある男子校生の日常NEXT【1】 ( No.72 )
- 日時: 2015/03/03 20:26
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: XnbZDj7O)
俺のBでL疑惑も収まり、湊との関係性もあの日の疑惑のキス以上の進行しないまま夏休みを迎えたある日の事。驚愕とも言える事態が我が家で起こっていた。
「すまん、もう一回言ってもらえるか?」
「……だから、私と付き合って下さい」
妹に告白された、なう。
嫌だ、そんな頬を赤らめて言われたらお兄ちゃんドキドキしちゃう。
……じゃねーよ! 何で? 暑さのせいで脳内に異常が出たんだろうか。
「……兄さん、何をしてるの?」
「いや、熱でもあるのかと」
葉月の額に手を当てて熱を計るという原始的な事をしてみたが、どうやら熱はないらしい。という事は──
「お、お前、実の兄をそんな目で……!」
「ち、違います! どこをどう考えたらそんな結論になるの!? バカなの!?」
顔を真っ赤にしながら、わたわたと焦った様子で抗議する葉月。
デスヨネー。ちょっとびびったけど、普段から俺の事をバカだアホだという葉月がそんな事を言う訳がない! 葉月は盛大な溜め息をつきながら「仕方ないなぁ」と言わんばかりの表情に変わる。
「だから、さっきも説明したけど、私の友達に香奈って子が居るの。その子に最近彼氏ができたらしいんだけど──」
葉月の説明によると、その友達の香奈って子が最近彼氏ができて、幸せのおすすわけなのか、ノロケなのかは知らないが葉月も彼氏をつくった方がいいと進めてきたらしい。最初のうちは上手くかわしていたらしが、あまりしつこく言われたせいか、葉月は段々と面倒くさくなり──
「自分には彼氏が居ると、そう言った訳だな?」
「……うん」
「それで、その彼氏役を俺にやれという訳か?」
「……うん」
俺の問い掛けに、ばつが悪そうに目を伏せる葉月。うーん、普段強気な葉月にこんな弱気なところを見せられてしまうと断りづらい。葉月の事だ。他に頼れる相手も居なくて、仕方なく、嫌々だけど俺にお願いしてきたんだろう。……あっ、自分で言ってて悲しくなってきた。涙が出ちゃう、だって男の子だもの。
「わかった、引き受けるよ。そのかわり、一度だけだぞ?」
「ほ、本当に!? うん、ありがとう!」
俺が了承すると、葉月は普段見られないくらいの眩しい笑顔で喜んだ。……仕方ないな。可愛い妹のために協力しようじゃないか。
***
──前言撤回。何が悲しくて妹と休日にデートせにゃならんのだ? 湊との約束を断ってまで。
葉月に相談された日から数日、湊からメールが来て「一緒に遊びにいかない?」と誘われた。もちろん即断即決、光の速さで返信をしようとしたら、葉月に止められた。理由は湊が指定した日付と、葉月と約束していたダブルデートをする日付がかぶってしまったから。ダブルデートって何それ? 美味しいの? むしろ初耳なんですけど? やっぱり人は自分が幸せじゃないと他の人の事まで考えられないと思うんです。妹を幸せにするにはまず自分が幸せじゃなくっちゃ。
「はぁ、湊とデート……」
「しょうがないでしょ。湊さんとは別の日にまた会えばいいじゃない」
待ち合わせ場所である駅前広場のベンチに腰を掛け溜め息をついていると、隣りに座る葉月が不機嫌そうにそう言う。
「お前はわかってない。湊は気まぐれだから、次はいつになるかわからないんだ」
もちろん、その日のメールで別日にできないか? と聞いてはみたが、湊の返事は「じゃあいいや」だった。
うおぉぉ! 俺って奴は、俺って奴は、最大のチャンスを棒に振ってしまったんじゃないか!? この間のキスの事だって、告白の返事だって聞くチャンスだったじゃないか! ……泣ける。マジでタイミング悪過ぎだろう。この世に神も仏もないな。
「……そんなの、知らないよ」
そう言って、葉月は少し拗ねたように口を尖らせて顔を背けた。
ふぅ、葉月にこれ以上言ってもしょうがないよな。またチャンスはあるさ。ある、よな?
昼下がり、見上げれば太陽が地面を焦がすように、暴力的なまでの熱が空から降り注いでいる。そろそろ待ち合わせ時間になろうかという時、一組のカップルが俺達の前までやってきた。
(続く)
- とある男子校生の日常NEXT【2】 ( No.73 )
- 日時: 2015/03/04 22:14
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「あぁ〜葉月、待たせてゴメンね」
「あっ、香奈。ううん、大丈夫」
夏の太陽のような弾ける笑顔で近づいてきたのは、どうやら葉月の友達でもあり、今回の元凶でもある香奈って子だ。
ショートの茶髪に、上は淡い赤のオフショルダーのサマーセーター、下は濃い茶のキュロット。幼い顔立ちで、見た目は快活そうな印象を受ける。
「で、そちらが葉月の彼氏?」
「……うん」
俺は香奈って子にジロジロと値踏みでもされるかのような視線を向けられる。うむ、ここは兄として、紳士に真摯な態度で挨拶せねばなるまい。年上彼氏(代理)の実力を見せてやろう。
「やぁ、はじめまして。君が葉月の友達? 俺の名前は誠、誠実の誠で誠。よろしくね、子猫ちゃん」
流れるような台詞の後にウインクをしてみた。これでバッチリ好印象間違いないな。……うん? 何やら葉月が横で頭を抱えているが、どうしたんだ?
「……あ、あははは、個性的な彼氏だね」
香奈って子が微妙に引きつった笑みを浮かべながらそう言った。これは驚いたって顔だな。うん、第一印象は上々じゃないか。やはり圭介に借りた情報誌『街角ウォーカー』で密かに勉強しておいた甲斐があった。本当は湊の為に勉強してたんだけど、こんなところで役に立つとはな。
「……バカ! 変な事しないでよ。そういうボケはいらないんだから!」
葉月が剣呑な表情で近づいてきて、周りに聞こえないくらいの声音で俺に言う。ボケたつもりはまったくないのだが、何がいけなかったんだ?
「……いやいや、完璧だったろ? こう、キュンときてもおかしくないくらい」
「それ、マジで言ってるんだとしたら兄さんのセンスを疑うわ」
葉月のまるでゴミでも見るかのような視線が俺を突き刺す。……うーん、葉月的にはNGだったらしいな。雑誌にはこういうセリフと仕草が巷で流行ってるって書いてあったんだが、何かを間違えたんだろうか? 奥が深い、デート。
そうこうしてる間に香奈って子……この呼び方は面倒くさいな。香奈ちゃんが「自分の彼氏も紹介するね」と言い出した。そして背後から出てきた男は——
「ちす」
「…………」
身長は180センチくらい、ガッシリとした体躯に、褐色の肌、切れ長の目、長い金髪を後ろで縛り、黒のタンクトップにダメージ加工された青ジーンズ、かなり厳ついチェーンをジャラジャラと腰に付けた、いかにも悪そう……もとい、チャラい感じだった。そして、謎の言葉。「ちす」何だ? 挨拶的な言葉なのか?
「ちす」
彼は反応しない俺が聞こえてないと思ったのか、俺のすぐ近くまで来てまた謎の言葉「ちす」を唱えた。
「ち……す」
俺がかろうじて返すと、満足したのか香奈ちゃんの隣りに戻っていった。
マジであれ挨拶なんだ。一瞬、何が起こるか分からない呪文かと思った。流星とか巨大な魔神が来るレベルのやつ。葉月も俺と同じ印象だったのか、まるで天然記念物でも見るかのような眼差しでポカンとしていた。対して香奈ちゃんは、にこやかに「カッコいいでしょ?」と葉月に言っている。
うん、俺が言うのもなんだけど、香奈ちゃんはセンスがちょっとズレてる子みたいだ。少なくとも、俺の第一印象としては。
「と、とりあえず、行こうか?」
彼が葉月にも「ちす」を唱えたところで、葉月は戸惑いながら香奈ちゃんにそう促す。あれ、マジでなんなんだろ。とにもかくにも俺達は今日の目的地へと歩き出した。
(続く)
- とある男子校生の日常NEXT【3】 ( No.74 )
- 日時: 2015/03/05 20:21
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: kXLxxwrM)
ウィンドウショッピングをしてから一時間くらい、今は駅前のモール内にある全体がピンク色のファンシーな店前で、あーでもない、こーでもないとキャッキャッする葉月と香奈ちゃんの二人を俺と彼は後ろで眺めていた。
しかし……あまり乗り気じゃないとか言ってたくせに、楽しそうじゃないか。ってか、俺来なくて良かったんじゃね? 後ろで立って見守るだけとか、畑に居るカカシと変わらない気がするな。妹の面子は守れても、俺の心の平穏は守れない訳ですよ。……今日もいい天気だね、まったく。
「…………」
チラリと横目で彼を見てみるが、気だるげにスマホをいじっていた。これといった会話もないし、共通の話題と言えば彼女(妹)くらいだが、この彼に話しかけるには結構な勇気がいるわけで。だってさ、ぶっちゃけ話したくないもん。面倒だし、この人見た目怖いし。しかし、このまま無言で居るのは気まずいよなぁ。やはり紳士として世間話くらいはしてみるか。レッツチャレンジ。
「ねぇ、彼女とは付き合ってもう長いの?」
「ちす」
「へぇ、じゃあ、彼女のどんなところが惹かれたの?」
「ちす」
「ふむふむ、なるほどね」
全然わかんねーよ! ちすって何語なの? ねぇ? 誰かホンヤクコンニャク持ってきて! 彼は日本語通じないよ!
「ちす?」
「……あー、うん、わかるわかる。困るよね、そういう時」
適当な相槌を打ちつつ、彼の会話を受け流す。話しかけて失敗した感がハンパないので、俺は笑顔でムーンウォークしながら彼との距離を取った。そのまま、葉月達が居る店から少し離れた休憩のために設置してあるベンチに腰を下ろす。
あぁ、もう帰っても良いんじゃないか。どちらにせよ、彼氏が居る(嘘ではあるが)ってのは疑っていた香奈ちゃんには見せた訳だし、もうお役ごめんだと思うんだが。ってか、本当なら今頃は湊とデートしてたかもしれないんだよなぁ。俺、何やってんだろう?
目を閉じて周りの景色をシャットアウトしながらそんな事を考えていたのだが、目を開いた次の瞬間、正面に見慣れた顔がある事に気付いた。その顔を認識する数秒の間、その人物はいつの間にか俺とほぼゼロ距離の位置まで近づいてくる。透き通った大きな瞳、弾力がありそうな唇、それはまるで……って、近い近い! 俺は慌てて距離を取るように後ずさる。おかげでベンチから転げ落ちた。
「やっほー、こんな所で何してるの誠?」
「み、湊……なぜ、ここに?」
転げ落ちて、寝転がった体勢のまま湊を見上げる。
ちょうど今、湊の事を考えていたせいか、うるさいくらい急激に心臓が高鳴り始めた。これはどういう巡り合わせだ? 俺の願いが天に届いたのか? 天は我を見捨ててなかった!
「奇遇だね〜、誠もここで買い物? だったら一緒に来てくれても良かったのに」
そう言って湊は頬を膨らませ、やや不満気に口を尖らせる。
うん? これはもしや、ヤキモチを妬いておられるのでは? なん……だと? うぅっ、ヤバい! こんなに嬉しい事があるなんて……神様仏様、ありがとう! 今日から俺は神様も仏様も居るって信じるよ!
「むぅ〜、聞いてるの?」
「あ、あぁ、聞いてる聞いてる。もし良かったら今からでも——」
一緒に行こう、と言いかけた途端、背後から物凄い殺気を感じて俺の言葉が止まる。意識して止めたのではなく、本能的に止まった感じだ。そう、主に生存本能的な意味で。油が切れたロボットのように、ゆっくりとその殺気がする方向へと振り向くと、そこに居たのは——
「ふふふ、何してるの誠? 勝手にどこか行ったらダメじゃない」
悪鬼のような黒いオーラを全身に纏った我が妹、葉月だった。表面上は笑いながらも目は全然笑ってない。
「ひいぃぃっ!」
恐怖で思わず悲鳴にも似た声が俺の口から零れる。葉月の瞳からは光が消えており「湊さんに余計な事を言ったら殺すからね」と、目が俺に訴えている。こえぇっ、俺の妹こえぇーよ!
「ありゃ? 葉月ちゃん? なーんだ、今日は葉月ちゃんとデートだったのかぁ。誠ってばシスコンだねぇ」
そんな葉月の暗黒オーラすら湊は意に介さず、いつものようにおどける口調で俺と葉月に話しかける。運が悪かったのは、ここに居るのは俺と葉月だけではなく、香奈ちゃんとその彼も居た事。
そして、湊の発言を香奈ちゃんが聞いてた事だ。案の定、葉月の後ろに居た香奈ちゃんは訝しげな顔で葉月と俺を見ていた。
(続く)
- とある男子校生の日常NEXT【4】 ( No.75 )
- 日時: 2015/03/10 23:42
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /48JlrDe)
「……シスコン? シスコンってあの——」
香奈ちゃんはそう呟きながら俺と葉月の顔を訝しげに見つめる。ヤバい、もしかして勘ぐられてるんじゃないか。額にうっすらと冷や汗をかきながら、どう反応したものかと思案していると、葉月が先に口を開いた。
「違うよ、シスターコンパの方。何か最近流行ってるんだって」
にこやかに香奈ちゃんに対応しながら葉月はそんな事を言う。我が妹ながらゴリ押し感がハンパない。さらには「反論はさせないから」と言わんばかりに、その笑顔の裏に黒のオーラが見えた。
ってか、シスターコンパってなんだよ!? 姉妹しか参加できないコンパとか、そういうやつ?
「へ、へぇ〜、そうなんだ。聞いた事ないなぁ」
そりゃそうだ。なら、ブラザーコンパもあるのかと問いたくなる。それならもはや何でもアリだな。
香奈ちゃんは、やや戸惑いながらも「そういうものもあるんだ」と納得してくれたみたいだ。素直な子で良かった。ふぅ、しかし危なかったぜ。危うく俺の人生に終止符が打たれるところだった。
「ふ〜ん、何か面白そう」
そう呟きながら今の様子を静観していた湊が蠱惑的な笑みを浮かべる。
なーんか、嫌な予感がするのは気のせいだろうか? 湊が物凄くキラキラした瞳で俺を見ている。あれは何かを企んでいるような気が——
「ねぇねぇ、誠。この子誰? 私という彼女が居ながら、他の子と浮気なの?」
「えっ!? ちょっ!?」
湊がわざとらしい台詞を言いながら、葉月を指差し、まるで見せつけるかのように俺の腕に自分の腕を絡めてくる。
えーっ、湊さんさっきまでそういう感じじゃなかったじゃない。しかも俺が告白した時、キスだけして返事せずに逃げたじゃない。絶対この状況を楽しんでるだけだよね? でも、嬉しい。湊に腕を組まれるなんて感動なんだ──がっ!?
「はうっ!」
湊に腕を組まれ、ひとり感動していると、突然俺の足の甲に激痛が走る。
「まこと〜、なぁにしてるのかな? 彼女の前で堂々と浮気なんてダメでしょ〜?」
慌てて声がする方へ視線を戻すと、葉月が恐ろしいくらいの笑顔(目はマジで怖い)を俺に向けながら、思いっきり足の甲を踏んでいた。さらにグリグリと踏みつけ、俺の痛みは加速していく。
「ちょっ、タイム! タァ〜ィム!」
非常に名残惜しいが、湊の腕を振りほどいて、葉月と一緒に離れた場所へと移動する。
「お前なぁ、めちゃくちゃ痛いじゃないか!? ちょっとは加減しろよ。それと、湊はからかってるだけなんだから、過剰に反応すると面白がってもっとやってくるぞ」
湊なら本気でやりかねない。
あの新しい玩具でも見つけたような顔、悪気なんてないんだろうけど、放置して葉月から拷問のように肉体的ダメージを受け続けるのはよろしくない。いや、それを差し引いても俺的にはプラスなんだけど、今回の目的は香奈ちゃんに葉月には彼氏が居ますよって事を見せるためであって、三角関係の修羅場を演じて昼ドラ的な物を見せる訳ではない。ひっじょーに惜しいとは思うんだけどね。うん。
「兄さんがデレデレした顔するからいけないんでしょ? 私にはそんな顔しないくせに……」
葉月は拗ねたように口を尖らせてそんな事を言う。
いやいや、妹を見てデレデレしてる兄ってどうなのよ? そりゃ捜せばそんな兄妹も居るかもしれないけど、あまり一般的ではないんじゃないだろうか?
それに、葉月だって俺の事をよく蔑むような視線を送ったり、貶すような事を言ったりするじゃないか。いや、葉月にデレデレしてほしい訳ではないけど。
「と、とにかく! 兄さんは今、私の彼氏役なんだから、他の人にデレデレされたら困るの! 香奈に疑われちゃうでしょ!」
「まぁ、そりゃそうなんだけど……」
たとえ、湊の無邪気な悪戯だとわかっていても、こう、その心地よさに浸っていたいと思う訳ですよ。何て言うの、人情的なやつですよ。うん。
しかし、葉月の約束を破ったとなれば今後の兄妹関係がギスギスしたものになってしまうかもしれない。兄として、嫌われてるのは仕方ないとしても、ギスギスするのはマズい。家族会議が始まっちゃう。
あぁっ、どうすりゃいいのさ!? 頭を抱えて唸る俺を葉月はむくれたような表情で見ていた。
(続く)