コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

とある男子校生の日常【4】 ( No.9 )
日時: 2014/08/29 19:35
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /uGlMfie)

 昨日の夜から降り続いた雨が、木々を濡らして水滴が葉を伝う。朝方には雲はすっかりなくなって、空は晴れ渡っていた。
 高い木々からはみ出すように生い茂った葉から、その雫が落ちてきて俺の顔に当たった。

「へっくしっ!!」

 豪快なくしゃみをしながら、鼻をすする。昨日の夜から一睡もしていない。寝てないとテンションがおかしくなると言うが、それは俺も例外ではなく、物陰から前を歩く湊の背中を見つめるだけという自分でもわからない奇行に走っていた。はたから見たら若干変質者ちっくな光景かもしれないが、やましい気持ちは1ミリもない。
 そんな俺は今、湊の後ろを2メートルくらいの距離を保ちつつ、縮められない距離に悩んでいた。

「朝からストーキングとは……ついに誠が犯罪者に成り下がったか」

「うわぉ!?」

 完全に周りの状況がシャットアウトされていたせいか、急に耳元から聞こえてきた声にのけぞりながら奇声をあげてしまった。
 落ち着いてよく見れば、鳥頭……もとい、圭介が訝しげな表情をして俺を見ていた。
 ちなみに、この場合の鳥頭というのは、鳥のように忘れっぽい頭という事ではなく、鳥の巣のように爆発した頭という事だ。うむ、我ながら本当にどうでもいい解説をしてしまった。

「テレビの取材が来た時に、いつかやると思っていました。なんて言うのは嫌だぜ?」

「そこはお前、こんな事する人とは思ってなかった。にしとけよ! ってか、何もしねーよ!」

 朝からのボケとツッコミの応酬に体力を削り取られていく。無駄な体力を使ってる場合ではないというのに。今日の俺は、湊に昨日の事をちゃんと確認するという重要な——

「おはよー。誠、それと野上くん」

 背後からかかる清流のように澄んだ声、慌てて振り返ればそこには俺の悩みの張本人、湊がいた。
 どうやら、圭介とバカやってる内に声がデカくなってしまって気付かれたようだ。

「おぉ、おはよーさん。湊よー、誠のやつがお前を——もがむ」

「あははは、圭介くんどうしたんだい? 急に黙ってしまって」

 圭介が湊にさっきの事をバラそうとしていたので、全力で口を塞いで黙らせた。ふぅ、危なかったぜ。あやうく確認する前に好感度がだだ下がりして、バットエンド直行だった。

「相変わらず、誠たちは面白いねぇ。今度、学園祭でコンビ組んでコントでもしたら?」 

 そう言って、湊は小さく笑う。あぁ、本当に可愛い。いつまでもこのまま湊を見ていたい気持ちになる。
 そんな事を考えていると、俺の右手にぬめっとした、ナメクジが這うような気持ち悪い感覚に襲われた。

「ぎゃあぁーー! 圭介、お前! 手を舐めてんじゃねぇよ!」

「ふん、俺の口を塞ごうなんて10年早いぞ?」

 手が、手がぁ! 圭介のやつの唾液でベタベタに……うぅ、気持ち悪い。
 俺がハンカチで手に付いた唾液を必死で拭っていると、その間に圭介が湊に知られたくない情報を話してしまっていた。お、終わった。
 その話しを聞いた湊がこちらに向かって静かに歩いてくる。
 俺はまるで死刑判決を待つ囚人のように、目をつむって判決を待つ。

「……誠」

 目を開けると、正面には湊の顔。
 ビンタか? それとも罵声か? えぇい! もうどうとでもなれ!

「野上くん、私達付き合う事になったから。だから全然問題ないよ」

 その瞬間、俺の腕に湊の腕の柔らかな感覚が伝わる。そのまま湊は後ろにいる圭介に振り返り、木漏れ日のような柔らかな笑みを浮かべてそう言った。

「はっ?」

「……へっ?」

 圭介もマヌケ面をしていたが、多分俺はもっとマヌケな顔になっていたに違いない。その後、状況を理解するまでかなりの時間を要した。

 (続く)