コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨降り曲集。【吹奏楽部】 ( No.1 )
- 日時: 2014/07/16 17:48
- 名前: 夕衣 ◆Q9Ii4rWFeg (ID: VI3Pf7.x)
*ぷれりゅーど。[序曲]
雨が降ってきた。
窓側の席に座っている私は、世界史の授業そっちのけで外を眺めていた。どんよりとした雨雲が広がっているけど、大丈夫、折りたたみ傘は常備している。
私は雨が好きだ。傘を差して歩くのを想像するだけで心が躍る。なぜだか、晴れの日よりもテンションが上がってしまうのだ。
「はい、じゃあ少し早いけど終わりにしまーす。号令!」
先生の声でハッと我に返る。やばい、ノート半分くらいしかとってない。
「気をつけー、れーい」
6月にもなると、ありがとうございましたー、すら言わないこのクラスにも慣れた。どうでもいいけれど。
私は黒板が消されてしまわないうちに、急いでノートを取りはじめた。
「あーめりっ」
シャーペンを赤いボールペンに持ち替えて書こうとしたとき、後ろから声がした。呼び方ですぐに汐乃だとわかった。
「もうすぐ帰り学活始まるよ? どうしたの、ノート広げて」
「あ、うん。さっきノート取りそびれちゃって……」
そのとき、チャイムが鳴った。6時間目終了であると共に帰り学活スタートのチャイムだ。
私は担任の先生がもう来ていたことに気づき、ノートを閉じてリュックにしまおうとしてチャックを開けた。
「よかったら見せてあげよっか?」
「……いいの?」
「うん。明日返してくれれば」
汐乃のノートはとってもきれいだ。この間国語のノートでクラス最高評価をもらっていたのだ。
我ながらいい親友を持ったと思った瞬間だった。
「ありがとーっ!」
そう言って私は汐乃に抱きついた。汐乃とは1年のとき部活で出会った、パートの近い友達だ。今となってはなんでも心置きなく話せる大親友となっていた。
そして、あまりにショックな彼女の事情を知ってしまった私は、なるべく一緒にいるようにしている。
「あ、じゃあウチ席戻るね」
「うん、ごめーん」
5分遅れで帰り学活が始まった。
長めで名言の多い先生の話が終わり、私は号令を待った。
「きりーつ、れいー」
「さよーならー」
今日は掃除当番ではないため、汐乃とそそくさと教室を出る。思ったとおり、廊下は友達を待つ人でごった返していた。
私たちはそんな人たちの間をよろめきながらすり抜け、部室がある4階へと向かう。この学校の最上階だ。
「あっ、こんにちは」
「こんにちはー」
後輩からのあいさつに応じ、先輩にもあいさつしながら2年生がいるところへと向かう。4人くらいの輪ができていた。
「うりちゃーん!」
「……」
ウリじゃないです。アメリです。内心で杏ちゃんにそうツッコむと、私と汐乃はリュックを起きその輪に入った。
そう、私は2年女子のほぼ全員と先輩の一部に『うりちゃん』と呼ばれている。どうやら『雨莉』を『うり』と読んだらしい。天然バカ過ぎると思う。
「雨降ってきたねー」
「やばい、ウチ傘持ってない!」
「あたしも! 誰か入れて!」
「いーよー」
いつものように他愛のない会話をしていると、チャラチャラと鍵の音が聞こえてきた。
第1音楽室、音楽準備室、第2音楽室の順に解錠される。私たちが荷物を置くのは第2音楽室──通称『2音』だ。
ここにはエアコンがないため、夏は暖房が効き冬は冷房が効くという最悪なコンディションで練習することになる。
私は練習場所である2音のピアノの上に小さめの水筒を置き、隣の準備室へと楽器を出しに行った。
────これからはじまる、波乱万丈なブラスバンドものがたり。