コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 雨降り、えちゅーど。【吹奏楽部】 ( No.10 )
- 日時: 2014/07/28 17:49
- 名前: 夕衣 ◆Q9Ii4rWFeg (ID: Q97r4MCO)
#1 かぷりちお。[狂想曲]
この際はっきり言うが、うちの吹奏楽部は強くない。毎年7月下旬に開催される全日本吹奏楽コンクールの市大会では、『銀賞』というレベルである。ここ数年、県大会には行っていないらしい。
コンクールは中学校のA部門、50人編成の大会だけでも3日間あり、1日18〜19校がエントリーする。吹奏楽部員であれば誰もが闘志を燃やす大きな戦いだ。市大会なんてただの予選に過ぎないけれど。
そして、『銀賞』なんていうと2位だと勘違いする人がたくさんいる。実際のところは10位くらいなのに。
『銀賞』の上に『金賞』がいて、その中でも次の大会──県大会へと進めるのは1日あたり6、7校。進めない金賞のことを、私たちは『ダメな金賞』、略して『ダメ金』と呼んでいる。
そして県大会を勝ち抜けばその上は東関東だったり東北だったりの一回り大きな大会に出場できる。さらに勝ち抜けば全国大会出場への切符を手にすることができるのだ。
全国の吹奏楽部員はきっとそれを夢見ているはず。だけど、そこまでの道のりは決して平坦ではない。そしてそれは私たち琳星中学校吹奏楽部も同じだった。
***
事は6月7日、土曜日に起こった。
土日の練習は朝9時からある。基本、9時から第1音楽室、『1音』でミーティングを行い、その後は合奏だったり、パート練習だったり、さまざまだ。
今日は譜面台が1音に準備してあるから、楽器を持ってミーティングに行く。先生はいつも必ず5分は遅れてくる。みんなが音出しをしていた。
先生が10分遅れで1音にやってくる。音はぴたっと止んだ。
まず、各パートの出欠をとった。確認したら先生の話がある。今日はそのあと基礎のパート練習だったため、2音へと戻った。
「あっ、おはようございます」
「おはよー」
私の後輩、羽音ちゃんだ。楽器の個数の都合で入って来れなかったかもしれない子だった。運良く近くの中学校が貸してくれて、私は念願の後輩をもつことができたのである。
もっとも、羽音ちゃんは「後輩なんていらないー」って言ってるけれど。
「雨莉ちゃん」
「はい! …あ、おはようございます」
この声は真緒先輩だ。私はとっさに返事をしたが、あいさつをしていなかったことに気づいて慌てて付け足した。
まあ、真緒先輩は優しいから気にしないとは思うけど。
「おはよう。松ヤニ貸してもらっていいかな?」
「あ、はい。どうぞ」
「ありがとー」
松ヤニというのは、弦楽器には欠かせない道具のひとつで、演奏前に弓に塗る滑り止めの役目を果たしている。ただ、塗り過ぎてしまうと変な音が出てしまうので毎日は塗っていない。
そして、私たち3人は松ヤニを共有していて、私のものとして取り扱われている。
「ありがとう」
「あ、はい」
「チューニング終わったら、隊形つくろっか」
「わかりました」
とりあえず開放弦とチューニングB♭だけ合わせ、楽器を端に寝かせた。
それから周囲の机をどかし、2つだけつなげ、そこに1音から持ってきた箱イスを置き、極めつけにメトロノーム on the chairでセット完了。
あとはてきとーに人数分のイスを出すだけだ。
「羽音ちゃんも入れますか?」
「うん、そうだね。基礎だし」
「わかりました」
私たちのパートはリーダーでバスクラリネット担当の湖鈴先輩、真緒先輩、私、羽音ちゃん、湖鈴先輩の後輩で1年生の里穂ちゃん、バリトンサックスの帆佳ちゃんの6人で形成されている。
この内コンクールに出るメンバー、通称『花組』は一応2、3年メンバー。気の毒な話だ。ちなみにコンクールに出れない1年生メンバーは期待の星という意味で『星組』と呼ばれている。
セットし終わり、みんなが席に着いた頃、湖鈴先輩は唐突にこう言った。
「今月の21日、オーディションするんだって」
……え。