コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- LAST SUMMER parallel ( No.1 )
- 日時: 2014/07/27 17:40
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
「危ない!」
英樹はその黄色い悲鳴のする方へ顔を向けた。
耳を塞ぎたくなる程のブレーキ音。
大きなトラックの先には—、目を見張る光景。
英樹は反射で乗っていた自転車を放り、思い切り手を伸ばした。
柔らかい感触。
勢いを付け過ぎたのか足を引っ掛け、ゴロゴロと転がる。
急いで英樹は抱いた小さな身体を自分の腕の中に収めた。
車に轢かれそうになっていた子供を辛うじて道路脇に押し出し、
英樹の視界は真っ暗になった。
- LAST SUMMER parallel ( No.2 )
- 日時: 2014/07/27 17:41
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
重たい身体を持ち上げる。
目を擦り、ぼんやりした頭で辺りを見渡す。
「ん……、何だ、ここ?」
英樹はいつの間にか、見たことも無い場所に座り込んでいた。
壁等無く虹色の空気の様なものが包んでいて、何だか丸い形をしている。
円形競技場みたいな楕円型ではなく、—球体。
立ち上がって虹色に手を当てる。
「!?」
英樹は息を飲んだ。
手が虹色に埋まっていきく。
何の感触も無い。
怖くなって手を抜くと、腕を通した穴は無かったかの様に元通りになった。
軽く足踏みをする。
今度はびくともしない。
寝惚けた思考回路は一気に冴え、頭の中をぐるぐると駆け巡っている。
俺は何を考えているんだ。
…何かをだ。
とにかく俺は俺の知らない場所に来ちまったらしい。
分かったのはそれだけ……………。
英樹は深く溜め息を吐いた。
焦っても仕方無い。
そう呟き、自分に言い聞かせる。
実際は幾度も汗が頬を伝っていた。
不意に、足元に違和感を抱いた。
しゃがんで靴付近を見詰めると、細長い緑色のリボンがあった。
虹色に反射してキラキラと光っている。
英樹は触ろうとリボンに手を伸ばした。
「それは駄目っ!!」
「えっ!?」
英樹は驚いて、怒鳴り声のした方へ顔を向けた。
そこへ仁王立ちしていたのは、小柄な女の子だった。
淡い水色のワンピース、小さな裸足。
ストレートで肩より少し長めの茶色が混じった黒い髪。
美人とは言い難いが可愛らしい顔立ち。
少し日焼けした腕を腰に当て、英樹を上から睨んでいた。
何かが引っ掛かり、英樹はその少女を真っ直ぐ見上げた。
そして英樹は幼き夏の日に甦って行った。
- LAST SUMMER parallel ( No.3 )
- 日時: 2014/07/27 17:42
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
「き…木田英樹です、よろしくお願いします。」
都会から引っ越してきた英樹は目を見張りながらも深々と頭を下げた。
「ほら、早く顔上げないとヒンケツになっちゃうぞー!」
—"貧血"の意味を良く知らない年齢であった英樹はすっかり混乱してしまったが、言われた通りに頭を上げた。
教室には、男3人と女1人、それに女の先生。
1学年に4クラス程あった前の学校とは大違いの空間だった。
昼休みは外でサッカー。
広々とした野原でボールを追い駆ける。
違う学年もいつの間にか入って来て、体格に負けじと懸命に走っていた。
他にも野球、木登り、段ボールを使ってそり遊び…と、田舎特有の遊びまで手を出した。
前の学校だったら怒られていた、と思えるものも少なくない。
楽しい暮らしの中で、たった一つ、気掛かりがあった。
気掛かり、と言うのは……
「どうして夏実ちゃんは皆と遊ばないの?」
「…ちゃん付け止めて、気持ち悪い。」
「じゃあ、夏実?」
「名前呼びもやだ。」
教室でたった一人の女子、夏実の事。
「山下…………さんは、」
何故間が空いたのかと言うと呼び捨てにしようとして鋭い目がこちらに向いたからだ。
「どうして皆と遊ばないで、ずっとそうやって座ってるの?」
夏実は頬杖をつきながら英樹から視線を外し、窓を眺めて呟いた。
「……………私は誰からも好かれない。お母さんもお父さんも、私が嫌い。…多分、皆も。」
小学4年生とは思えない言葉に、英樹は戸惑った。
その時、夏実が言っている事が理解出来なかったのだ。
英樹は分からないなりに—、即答した。
「俺は好きだよ。夏実の事。」
逸らされていた視線が驚いた様に一瞬戻り、また逸らされた。
バカ。
そう唇が動いたが、声は発されなかった。
- LAST SUMMER parallel ( No.4 )
- 日時: 2014/07/27 17:43
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
その夜、夏実に誘われて海へ向かった。
少し歩けば着く、小さくも綺麗な海。
パジャマのまま親が寝ている事を確認して窓から抜け出すのは、何とも言えないスリルがあった。
夏実は先に着いていて、こちらは昼のワンピースのままだった。
一人で砂浜に座り、海を見詰めていた。
波が寄り、夏実の足に近付く。
夏実が少し足で波に砂をかけると、海水は素直に引き下がった。
数秒してからまた波は海岸に身を乗り出す。
そして去って。
寄って。
去って。
寄って。
去って。
この波を見る目は何だか悲しげで、英樹は近寄りがたくなり夏実を見詰めているしか出来なかった。
しばらくして、気配を感じたのか夏実はこちらに振り向いた。
肩より少し長めの髪が、風に靡かれて音を立てた。
夏実はポケットから線香花火を取り出して、マッチを擦った。
暗く青い色の中に明々と光る。
2つ一気に火を着けて、マッチに息を吹きかけて海に放り投げた。
小さな球がパチパチと火花を散らす。
「結構好きなの、線香花火。……優しい感じがするから。」
そう言いながら英樹に1本渡す。
英樹は何も言わずに頷き、それを受け取った。
球の明かりが2人を包む。
英樹は海に向かってその光を掲げた。
線香花火が無くなるまで、色々な話をした。
どんな事を話したか覚えていないが、他愛ない雑談であったのだと思う。
球が落ちると、夏実はまた線香花火に火を近づけた。
夏実の手持ちが尽きると同時に、会話も途切れた。
長い沈黙が夜の海を渦巻く。
「…英樹。また明日、一緒に、線香花火、しようね。」
「……うん。」
小さな約束を交わして、英樹はゆっくりと家へ帰った。
次の日。
夏実は、学校に来なかった。
風邪でも引いたのかと思い先生に尋ねた。
…………が。
「なつ…み?誰なの、それ。」
「だから、山下夏実です。ほら、このクラスでたった1人の女子ですよ!」
「何言ってんだヒデー。ウチ、男しかいねえじゃん!!」
担任との会話に割り込んだのはクラスの友達だ。
「てか、このちっせー街にはナツミなんて奴居ないぞ、ヒデ。」
この街の子供達は皆知り合いなのだ。
「もしかして……、都会に居た時のカノジョとかじゃねーの!?」
男だらけの癖に歓声が上がり、面倒なので口を閉ざした。
放課後、少ない小遣いで線香花火を買い、自転車を走らせた。
夏実の家にも行ってみたが、「家に子供は居ない」と言われてしまった。
信じられない。
まさか………………………まさかまさかまさか。
有り得ない、絶対有り得ない。
—そう自分に言い聞かせてペダルを踏んだ。
- LAST SUMMER parallel ( No.5 )
- 日時: 2014/07/27 17:44
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
いつの間にか、日が暮れた。
夏実は見付からなかった。
ほんの少し残った体力を振り絞り、昨日の浜辺へ向かった。
夕暮れの海は綺麗だった。
夕日が海に沈んで、溶けているみたいだ。
よろよろと自転車を降り、道端に停める。
「…夏実?」
浜辺には—ワンピースの小柄な少女の背中。
砂浜に立ち、海を見詰めている。
「夏実!」
名を呼ぶと、髪がさあっと揺れた。
一瞬、こちらにその顔が向いた。
その口元は、嬉しそうで悲しそうな、何故か胸を刺す様な笑顔だった。
「な…つ、み。」
動揺を隠しきれないまま、もう一度繰り返す。
夏実の存在を確かめる様に。
「……やろう。線香花火。」
英樹はポケットの中でくしゃくしゃになった線香花火を取り出した。
「約束、だろ?」
そう言うと、夏実は俯いた。
髪が顔に掛かって、見えなくなった。
一粒の滴が砂に吸収されたのと同時に、—その姿は消えた。
英樹は涙が落ちた砂を拾い上げた。
まだほんの少し水気が残っていた。
その砂をハンカチに包み、夏実が立っていた場所に線香花火を置いた。
頬を沢山の水が濡らし、虫生に悔しかった。
次の日には、その線香花火は無くなっていた。
その後、目撃情報が幾つも流れ、小さな怪談として囁かれていった。
夏の、実りの時期に現れる不思議な少女。
しかし、英樹はあの時以来、背中を一度も見ることは無かった。
その思い出はいつしか胸に仕舞われ、顔も思い出せなくなった。
あれから、4年の月日が経った。
- LAST SUMMER parallel ( No.6 )
- 日時: 2014/07/27 17:45
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: xhJ6l4BS)
「…………もしかして、夏実?」
英樹は現実に引き戻り、前に立つ少女を見上げた。
そうだ、あの日、確かに淡い水色のワンピースを着ていた…。
夏実も思い出したのか目を見開いている。
「ひ…、でき?」
そう、この街でヒデと呼ばないのは英樹の両親と夏実ぐらいだった。
英樹は静かに頷いた。
混乱している夏実は今だ小学4年生の身体だ。
あの頃は夏実と同じくらいの背丈だったのに、こっちだけ中学2年男子相当の背丈となっていて、不思議な気分だ。
「こっちにはどうやって来たの?」
たどたどしく夏実が聞いてきたので英樹は小さな子供を助けた事を伝えた。
「そうか……、きっとその衝撃で飛ばされちゃったのね。」
「夏実、此処、何処なの?」
英樹が尋ねると、夏実は言葉を探す様に目線を泳がせた。
「えーと…、英樹、車に轢かれそうになったんでしょ?普通は即座に天国行きなんだけど、例外があるの。それが、此処。向こう……、英樹がさっきまで居たのとは別世界。死ぬ筈の衝撃や展開の時、空中に穴が開いて吸い込まれる。」
訳が分からずに英樹は頭を抱えた。
「つ、つまり、俺達は漫画みたいな世界に、居ると…。」
「そう言う事。何故こうなっているのかは、私にも良く分からないけどね。」
夏実は虹の壁に腕を突き刺した。
「脱出しようと試した事もあるけど、失敗した。身体の半分まで通すともの凄い力で押し返される。」
英樹は夏実の話を呆然と聞きながら、上を見上げた。
「…ん?」
最初は見過ごしていたのだが、—一筋の光が射し込んでいた。
「あれは?」
指差す方向を見た夏実は、あああれかと乗り気で無い様に呟いた。
「外の世界と繋がる窓。このリボンを手首に巻き付けて……。」
最後の方はもう聞いていなかった。
何だ、あそこから出られるんじゃないか!
球体の別世界はどこまでも床に変身し、上まで走るのも楽々だった。
無造作に緑色のリボンを結び、英樹は光の穴に飛び込んだ。
- LAST SUMMER parallel ( No.7 )
- 日時: 2014/08/02 10:58
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: sZYMS.0b)
英樹は昼間の街に出た。
大きく深呼吸して、辺りを見回す。
…ん?街?
確かに街ではあるのだが……、違う。
社会の教科書に出てきたあの商店街の様な風景が広がっていた。
周りの人々は浴衣を身に纏っている。
疑わしい視線を感じた英樹は反射的に隠れようとしたが……隠れる場所が無い。
皆、不思議そうな目付きをしていた。
当たり前だ、だって…、英樹は未来の服を着ているのだから。
焦ってリボンをほどくと、英樹の視界は真っ暗になった。
「だから駄目って言ったのに。」
夏実は不満げに頬を膨らませた。
「外に出られるかもしれないって思ったら、つい…。」
「最後まで話を聞かないんだから、もう。」
ぶうたれながら夏実は説明してくれた。
要約すると、現代の世界に戻れるのは夏の夜のみで、他の時間帯だと違う世界に辿り着いてしまうのだと言う。
「夏かどうか、夜かどうかは感覚で大体分かるの。」と言っていたが、……本当かは知らない。
最大約15分、リボンをほどけばいつでも、此処(異世界)に引き戻される。
「つ、つまり……、元の世界に戻る方法は…………?」
「無い。あっても知らない。」
即答に頭を項垂れる。
「もしも知ってたら私こんなところにいないもの。」
ごもっとも、だ。
追い討ちを掛けられて英樹は小さくなった。
- LAST SUMMER parallel ( No.9 )
- 日時: 2014/08/02 16:29
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: sZYMS.0b)
「……夜だ。」
夏実は不意に呟いた。
聞き返した英樹にもう一度同じ台詞を言い、ポケットから赤いリボンを取り出した。
「行こう。外。」
夏実は髪に綺麗な形に結び、穴を潜り抜けた。
英樹も慌てて腕に巻き、その後を追った。
夏実はずっとポケットに手を入れていた。
英樹はうろうろと歩き回っている。
…間違いない、いつもの海だ。
波のさざめきを月の光が優しく包む。
すると、聞き慣れた話し声が聞こえた。
同級生の二人組だ。
「おーい!」
英樹が大きく手を振ると、二人はびくっとこちらを見た。
「……お前、だ、誰だよ………………?」
「英樹だよ、木田英樹!ほら、ヒデだって!」
はしゃいだ声をあげると二人は何故かますます硬直した。
「英樹ッ!!」
夏実が珍しく叫び、さっとリボンをほどいた。
「さっさとしろ!」
消える寸前の声に慌てて従い、腕のリボンを取った。
二人の困惑した目線がこちらに向き、離れなかった。
- LAST SUMMER parallel ( No.10 )
- 日時: 2014/08/10 14:03
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: lAbz4I/2)
「馬鹿ッ!!」
帰った途端、夏実は思い切り英樹を詰った。
英樹はその声すら聞こえていないかと言う位にぼんやりとしていた。
「あいつら…………、俺の事…………………。」
忘れたのか?とは言えなかった。
さっきの出来事を現実と捉えたくなかった。
英樹の気持ちに追い討ちをかけるかの様に夏実は尖った声で言った。
「忘れたの?私が消えた日。英樹以外、私の事覚えてなかったでしょ?此処に来た人間は忘れられる運命なのよ。誰も彼も皆…あんたの事なんかすっかり記憶に無いんだから!!」
「で、でも……、俺は夏実の事…………。」
「あんただって忘れてたじゃない!私に会っても、何にも思い出せなかったくせに!」
「で、でも!お前だって、俺の事忘れてただろ!」
「そ、それは…………っ!」
夏実は真っ赤な顔のまま俯いた。
そしてそれを振り切るかの様に顔を背けた。
- LAST SUMMER parallel ( No.11 )
- 日時: 2014/08/13 15:17
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: 7Qg9ad9R)
どのぐらい時間が経ったのだろうか。
距離が置かれた背中が、嗚咽を堪えて震えている。
英樹は為す術も無く、腕に体重を預けて変わらぬ虹色の天井を見上げていた。
夏実は体育座りでスカートに顔をうずくめている。
どのぐらい時間が経ったのだろうか。
1秒が長く感じる。
2時間は経っている気がするが、本当は10分くらいなのかもしれない。
此処に時計は存在しない。
英樹は腕時計等持っていない。
どれぐらい時間が経ったのだろうか。
長く流れる時の中、英樹が見付けた答えは唯一つだけだった。
昔クラスメイトで、他の人よりもちょっと近い、不思議な存在で、
いつの間にか4つも年が離れていて、
いつも心の何処かで引っ掛かっていた気もする、
こいつを泣かせてしまった。
それしか分からなかった。
- LAST SUMMER parallel ( No.12 )
- 日時: 2014/08/24 13:03
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: 0M.9FvYj)
「…英樹。また明日、一緒に、線香花火、しようね。」
自分でもそう思っている。
馬鹿げた約束をした。
—自分から、この世に未練を残すなんて。
あの日の夜。
夏実は死のうと思っていた。
両親は夏実が物心ついた時から喧嘩だらけで離婚寸前だった。
夏実の母も父も子供に恵まれたとは言い難かった。
最初に出来た子供はお腹の中で死んだ。
男の子だった。
もうすぐ産まれる、と誰もが楽しみにしていた。
その分、父は会社内で恥ずかしい思いをしたと母を責め、母も反抗して仲が悪くなっていった。
そんな中で、夏実は出来た。
産まれなかった兄と、5歳も年が離れていた。
父は古い人で、男が欲しかったと言った。
夏実は歓迎されずに誕生した。
誰も、喜んでなんかいなかった。
- LAST SUMMER parallel ( No.13 )
- 日時: 2014/08/25 13:02
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: .KyU0SCB)
夏実の後に子供は産まれなかった。
小さい頃から、自分が女である事を責められた。
夏実が男なら、こういうことにはならなかったのに。
母は良くこう言って嘆いた。
本当は些細な事の筈の喧嘩は大きくなっていった。
何故自分が男でなければならなかったのか、夏実には理解出来なかった。
ただ、望まれた子では無かった事だけが薄々と感じられた。
どうやら父は駄々をこねただけだったらしい。
だがその言い訳が通用する程甘くない位に事態は悪くなっていた。
夏実が小学校に上がる直前に、両親は離婚した。
夏実は母に引き取られ、小さな海に面す街へ連れていかれた。
父は父より7つも年が上の女性と再婚した。
父とはそれ以来会っていないし、今何処に居るかも分からない。
母は小さな家を構え、細々と仕事をしながら生計を立てた。
母はあまりにも忙しく—多分男ともそれなりに会っていたのだろう、深夜まで家に戻ることは無く、夕飯はカップラーメンばかりだった。
少しずつ料理を覚え始めたのはこの頃だった気がする。
肩身が狭い思いをしながら生活していく中で、学校が唯一夏実の支えとなった場所だった。
育った環境があんなものだったし、周りは男子ばかりだった為友達は少なかったが、誰も自分の存在を責めない場所で、此処だけが夏実にとって広々とした気持ちになれた。
そして、教室に男の子が一人増えた。
都会から来たと言う小さなそいつは、たどたどしく自分が「きだひでき」だと名乗り、おののく位に頭を下げた。
その時はどうでも良い、と思っていた。
……その時は、である。
- LAST SUMMER parallel ( No.14 )
- 日時: 2014/08/26 21:18
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: YiQB1cB2)
小学4年になった後、母は再婚した。
再婚してすぐ、男の子を産んだ。
あんなに子に恵まれなかったのが嘘の様に、今またもう一人お腹の中に居る。
母も新しい父も、当然の様に夏実と父が違う弟ばかり可愛がった。
夏実はもう存在してもしなくても変わらなかった。
ただ話し掛けると邪魔そうな目を向けるだけ。
一度、愛されてみたい。
そんな願いすら叶いそうに無かった。
夏実は自殺計画を立てた。
10歳の身を離れたいと強く思った。
怖くなんてなかった。
むしろ、今の状況から解放されると思うと嬉しくてたまらなかった。
それぐらい夏実の心は閉ざされていた。
今日死のうと思っていた。
夏実はいつになく固くシャットアウトし、最後になる青空を眺めた。
一人の、最後の一日にしようと思っていた。
……まさか、話し掛けられるとは思わなかった。
「どうして夏実ちゃんは皆と遊ばないの?」
転入してから、事務的な話しかした事の無かった、無邪気な表情の男の子。
驚きを隠す様に全然関係の無い事を口にしていた。
「…ちゃん付け止めて、気持ち悪い。」
本当は別に嫌な訳ではないのに、つっけんどんな答えしか出来なかった。
その男の子……、「木田」君も困った様に頭を掻いている。
「じゃあ、夏実?」
「名前呼びもやだ。」
ああ、何でこんな事言ってるんだろう。
夏実は益々不機嫌になった。
「山下…………さんは、」
八つ当たりで鋭い目を向かせたら間があいた。
戸惑ったのかもしれない。
「どうして皆と遊ばないで、ずっとそうやって座ってるの?」
夏実は頬杖をつきながら英樹から視線を外し、窓を眺めて呟いた。
何故、産まれてからずっと心に秘めていた事を言えたのだろうか。
「……………私は誰からも好かれない。お母さんもお父さんも、私が嫌い。…多分、皆も。」
見ていなくても、英樹が動揺しているのが分かった。
…この後、すぐにこの言葉が出てくるなんて思ってもいなかった。
「俺は好きだよ。夏実の事。」
驚いて逸らしていた視線を一瞬戻し、また逸らした。
自分に向けられた言葉なんて信じられなかった。
誰にも愛された事なんか無くて。
愛されたいといつも思っていて。
それすらも願いは叶わなくて。
叶わないと知っていても願っていて。
そんな自分に掛けられたものだとは思えなかった。
視界が潤んで、何も見えなくなった。
バカ。
辛うじて発そうとしたその言葉は、声にならなかった。
- LAST SUMMER parallel ( No.15 )
- 日時: 2014/08/29 20:58
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: YcGoCaZX)
「夜の10時、一緒にやらない?海で線香花火。」
放課後に夏実は無意識の内にそう誘っていた。
夏実は線香花火が好きで、色々な種類を見付けては買い、とっておいていた。
最後の夜にちょっと花を飾るくらい、神様もきっと許してくれる。
後でそうやって、自分を納得させた。
予定より少し早く海に着いた。
この後海で楽しんで……、海で死ぬ。
そうしようと決めていた。
時間は刻一刻と進む。
英樹が遅れたらこのまま死のうかと思っていた。
穏やかな波を見詰める。
夏実は知っていた。
今日の夜は風が強い。
真夜中になるとほんの少し波が荒れる。
その時に、と決意していた。
今更惜しくなった訳ではないが、何となく寂しい気持ちになったところで、気配を感じた。
英樹がパジャマのまま、こちらを見ていた。
穏やかな夜だった。
何でもない、どうでもいい話ばかりだけれど、胸が弾んだ。
線香花火の優しい光が、英樹のはにかんだ笑顔を照らした。
英樹との交流は、本当にこれだけだった。
なのに何故か、言葉には表せない、今まで感じたことの無い不思議な感情を抱いていた。
楽しい時は、驚く程早く流れた。
風が強まっていく。
夏実が持ってきた花火も尽きた。
今思うと、もっと持っていけば良かったのだが、夏実が生きた証が全て無くなるような気がしていたのだ。
そして……、どうして言ってしまったのだろう。
気付くと、約束、と心の中で呟いていた。
実際そんな可愛らしい事言える訳がない。
「…英樹。また明日、一緒に、線香花火、しようね。」
言えたのはこれだけだった。
もっともっと、他の色々なこと言いたかったのに、これだけだった。
「……うん。」
英樹は小さく頷いて、優しく笑った。
自分からした約束だった。
心の底から破りたくないと思っている自分を、夏実は認めた。
こんな小さな事で、10年の鬱憤を消し去れた訳では無かった。
でも、この10年間よりも、さっきの1時間弱の方が、特別に思えた。
帰ろう、と家に向かう為、丘に上った。
この下の海は深くなっていて、此処から飛び降りようと思っていた場所。
そこに……、父と母の姿が見えた気がした。
父は、自分の本当の父。
母も父も夏実を睨んでいた。
夏実は思わず後ずさった。
両親は夏実に近付いて来た。
一歩後ろに下がったとき蹴った石が、静かな音を立てて海に沈んだ。
父と母は、一緒に片手を振って空中を斬った。
その時夏実は全てを悟った気がした。
つい先程まで夏実が待っていた強風が、夏実を煽った。
踏ん張ったが耐えきれなかった。
父と母の姿はもう見えず、あれは幻覚だったのだと知った。
待ち望んだ筈の行動に、恐怖を感じた。
夏実は、海に落ちた。
何かに掴もうとしたが、海には空しい程何も無かった。
息を吸おうとしたが、荒れた波に逆らうことは出来なかった。
くっきりと「死」が見え始めたところで、夏実の意識は途切れた。
- LAST SUMMER parallel ( No.16 )
- 日時: 2014/09/06 23:18
- 名前: 紙風船 ◆j5fpcv1lQM (ID: 6xeOOcq6)
「……ごめん。」
英樹がいきなり頭を下げた。
夏実は赤い目のまま頬を膨らました。
「どうして謝るのよ。」
「……え、えっと…………。」
英樹は顎に人差し指を当てた。
英樹は嘘を吐けない。
「……何か、泣かせちゃったし。………理由分からないの、俺が悪いもん。」
夏実は吹き出した。
「バーカ。」
「…え?」
「バーカ!」
夏実は泣き笑いの表情で英樹に向かって叫んだ。
あの日、声に出来なかった言葉だった。
