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- Re: 千年樹の記憶[コメント募集] ( No.3 )
- 日時: 2014/08/04 15:13
- 名前: 円周率 (ID: LfhJsbHs)
第一話
穏やかな春が過ぎる。
やたらと暑い夏が過ぎる。
芸術の秋といわれる秋が過ぎる。
寒い寒い、冬が過ぎる。
「やっぱり、人間の一年っていうのは物凄くつまらないよなぁ…」
深い森の奥にある【千年樹】の枝腰掛けながら、樹の精霊である少年は呟いた。
とてつもなく大きな樹に、着物を着た美少年。何故か異世界の雰囲気が漂う、不思議な光景だ。
少年ーハルは、太古から文字通り"生きている"樹【千年樹】の精霊だ。
長く生きる内に、自然に霊力という"力"と自我が生まれ、ハルという存在が出来た。まあ、ハルの霊力はあってもやる事があまり無いため本人は人間の町に時々遊びに行ったりする暇人だが。
ちなみに高さが軽く百メートルを越えている千年樹が、人に見つからないのには理由がある。
千年も生きている樹なんて人間に見つかれば確実に大騒ぎになるし、そもそも大きいため目立つ。
そう考えたハルは、千年樹の森に人が入れないようにしたのだった。
ハルは千年樹の表裏一体の存在なので、樹に関する事なら基本的に念じるだけで完了だ。
「よいしょっと」
ハルは枝から地面に着地した。
「ハルーっ、どうしたのぉ?具合が悪そうに見えるんだけど、相談にのろうか?」
「別に。心配しなくていいよ、鳥」
「でもちょっと心配」
うたた寝しはじめたハルの周りに、動物が集まり始めた。
ハルは喋りかけてくる動物達の相手を、渋々務める。
「ハルはさ、本当にいっつも目が死んでるよね。ちょっと中二病っぽいし。顔はいいのに、目のせいでモテないんだよ?もうちょっとモテる努力をすれば?」
「うるさいよ。だいたい僕はモテたくないし、モテる異性もいないし。ていうかお前何処でそんな言葉覚えたの?!」
「なんかねー。漫画読んでたの」
「はぁ…」
狐は子供なのに、どうやらスラングをしっかり理解しているようだ。 ハルは溜め息をついた。子狐の将来が若干恐ろしくなってきたからである。
「ハル、お腹空いた」
「自分で獲物をとれよ!僕は食べ物いらないの知ってるだろ」
純粋にハルに話し掛ける動物もいるが、圧倒的にハルをからかう声が多い。
表面上、面倒くさがりながらもそこそこに楽しんでいたハルだったのだが、その平和をぶち壊した人物がいた。
「うああああああああ、助けてーっ!」
大きな悲鳴が響き渡り、動物は一斉に逃げ出してしまう。
ハルは悲鳴が聞こえた上空に目を凝らし、見構える。
(人間はここに入ってこられないのだから、妖怪の類いなのか?だと、まずい)
「…あれ?」
ハルは首を傾げる。
あいつ、妖怪だったら術かなにかを使わないのか?地面に激突するぞ。それに、やたらと姿が人間、それも女に近くないか?
ハルの心配は、すぐに終わる。
「ひいやあああ!!」
「っ?!」
その物体は、地面に激突してしまったのだ。
ハルは声をかけるかどうか暫く迷う。誰が好き好んで腕をピクピクさせている少女に近付きたいのか。
「えーと、怪我してない?」
「怪我してないように、ゲホっ、見えていますか。あなた、誰?ここ、何処ですかぁ」
まだ震えながら恐る恐る顔をあげる少女。
泥だらけの少女の顔を見て、ハルは今日は厄日だなあ、とまた心の中で呟いた。