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Re:  千年樹の記憶  ( No.6 )
日時: 2014/08/10 13:27
名前: 円周率 (ID: LfhJsbHs)

 

「こういう時どう声掛ければわかんないけどさ、二回目だけど怪我、してない?…いや、してるよね。どっか痛まないかい?骨折とかしてると思うし」
 

 あの高さから落下しているのだから、人なら生きているだけでも充分である。これですり傷とかですんでいたら、そいつは人間を辞めている。
 しかしその少女らしき物は、ハルの予想を裏切る答えを出した。

「心配してくださって有り難いんですけど、骨折とかしてません。ちょっと足をぐねったくらいですかねー、いたた」
「よし分かった、お前人間じゃないですね。今すぐこっから出ていって」
「は、はいィ?!態度急変しましたよ、私足痛いって言ってるじゃないですか。人の話を聞きましょうよ、着物野郎!」
「…チッ」
 

 着物野郎と、人の話を聞け言われた事により、ハルは舌打ちをする。最初は手当てでもしようかと考えたが、今は苛々していた。
 ポニーテール土だらけ少女(妖怪疑惑発生中)は必死に反論しているが、ハルは他の人物と関わる機会自体が無いので苛々は益々募るばかりだ。


「はぁ…これが最後の質問だよ、君にこの樹は見えてるかい?」
「へ?こんなに大きい樹なのに、見えないとかどんだけ視力悪いんでしょうかね。ちなみに私の視力は1.2ですよ」
「君わざとやってるの?」


 どうやらこの少女は天然らしいが、それ以外の判断にハルは悩む。


ーこのポニーテール土だらけは一体なんなのか?という。

 まずこの樹の森には人間が入ってこられない。そして【千年樹】は人には見えない。
 下級妖怪が意味不明に襲ってくるのもあるが、そのような輩は人間に変化できる程の力は存在しない。中級、上級と呼ばれる実力者はもう少し分別はあるため、襲ってくる事は無かった。
 というか少女は、落下してきた。
 
 つまり、この少女の正体が本当に分からないのだ。

 考え込むハルに対して、少女は不安そうに「どうしたんですか?」と
問い掛けてくるため、ハルはとりあえず、少女を手当てする事にする。

「どうもしてない。あー、色々聞きたいけど、今は置いといて君の手当てをするから。ちょっと待ってて」
「はあ、了解ですけど。着物野郎…さん?」
「その着物野郎って辞めてくれない?ポニーテール土だらけ。僕にはハルっていう名前があるの」
「ポニーテール土だらけっ?!私の名前は美藤結衣!み・ふ・じ・ゆ・い!」


 ギャーギャーと喚く結衣。ハルは無視して千年樹の精霊として動物達と意識を繋ぐ。
 先程の、結衣が落下してきてから一時的に木の後ろや森の巣に散り散りになった子狐その他。ハルは動物と、テレパシーのような精霊の力を使えるのだ。
[ハル、さっきの人って誰?妖怪じゃないの?]
[怖いよー]
[多分、妖怪じゃない、筈。この美藤って人の手当てしてくれない?川の水と綺麗な布と、木の実が欲しい]
[あいよー]

 動物のいい返事に、ハルは少しだけ心が和む。
 しかしその念話を終えて、佐織に向き直ると、ハルは絶句した。
 だってまだ佐織は、


「ついてないー!着物野…違うハルさんも胡散臭い人だし、足はぐねるし、変な場所にいるし、顔とか服は土まみれになってるしぃ。もうやだこの国。いっそ外国にでも行けないかなー?」
「落ち着こうよ美藤!怖いよ、ぶつぶつ呟くな!」
 結衣が、感情が抜け落ちたような表情で、言葉を吐き出していたから。