コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 能力少女 ( No.106 )
日時: 2016/03/24 22:40
名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)


 そのあと、最終的に和解させるために玲は結構な時間を要してとてもじゃない体力を消費したが、そんな原因を作ったと言っては過言ではないユリは、とても満足そうな顔をしていた。

「玲! こんど愁哉さんが私にキッシュの作り方教えてくれるって!」

「ああ、よかったな。というかお前が何か自分で作った食べ物を持ってきていて良かったわ・・・・・・」

 そう、たまたまユリは昨日なんだかんだ作っていた、生キャラメルを持っていたので、それを渡したところ、愁哉に料理の腕を認められ、和解・・・・・・ということだ。
 そこまで行くのに結構な時間を要したが、まあ、最終的にいいところに着地したのでいいとしようと玲は思った。

「うん、一応空腹対策用だったんだけれど、思いもよらないところで役立ってよかったよ」

 そんな時だった。ある低いような高いような、なんとも言えない男の声が聞こえてきた。

「おい、貴様。咲乃ユリと言ったな。なんで最初に俺に挨拶をしない?」

 ユリが声が聞こえた方に視線をやる。すると、さっき椅子に座って移動していた男の人がとても偉そうな格好でユリに目を向けていた。

「え? まずしなくてはいけない方は、誠仁さんですよね」

 ユリは首を傾げる。が、男はただ自分の意見をユリにぶつけてきた。

「そうじゃない。この会が始まってからのことだ。なぜまずあの頭がおかしい山梨好き好き女と話す? というか! ただの肉体の塊が俺に意見するな。低俗な生き物が俺の鼓膜を汚すだけでも不愉快だ」

「は? そりゃあ、最初に詩生野さんが話しかけてきたからですけれど」

「だから俺に意見するなと言っているんだ。貴様に発言権は無い。俺の前では、貴様家畜に与えられた人権とやらは適応されない。なんなら試してみるか? 俺の能力を使って」

 その瞬間、ブチっという何かが切れた音が聞こえた。玲が何か異変に気づき、ユリのほうを見る。するとユリはとても笑顔だった。満面の、笑みだった。玲は冷や汗が出る。それもそのはず、ユリがこういう状況の時、笑顔の場合はとてもじゃないほど切れている時だ。

「・・・・・・・・・・・・。一言言っていい? 私あんたがこのアジトの中で一番嫌いだわ。すっげ—ムカつく」

「あ、言っちゃった」

 玲はもう放置することに決めた。キレたユリを咎めに行っても、自分が大火傷することは長年ユリと暮らしていて気付けたことだ。
 そんなことも知らずに、男はユリの怒りに油を注ごうとする。

「は? そんなこと俺」「うっせーよ。第一、忘れたのか? お前がどのような能力持ってたってな、それは私も持っているんだ。というかその前に私は能力の無効化というもの持ってるから、発動もさせない。以上。よし、玲、愁哉さんの料理食べいこう」

「はは、そんなに怒るなよ。俺の力に怖気づいているだけだろう?」

「ちなみに私があなたに抱いた第一印象、椅子に乗ったまま移動している気持ち悪い人です」

 その言葉で男はユリにやられた。玲はとてもかわいそうな人を見る目で男の人に声が掛けようとしたその時だった。

「・・・・・・・・・・・・俺の名前は桜庭風馬(さくらばふうま)、年齢は十七歳で、高三。能力はさっき言った通りだ。よろしく・・・・・・」

 そう弱々しく男——風馬は自己紹介したのだった。
 そんなときに、ある少しゆっくりな口調の女の人の声が聞こえてきた。

「・・・・・・お、さっそく、風馬が言葉で負けている。こんにちは、ぼくの名前は暁 時也(あかつき ときや)だ。こいつの幼馴染で、同じ学校に通ってる。歳は十七で高二だ。能力は身体能力の強化だ。よろしくな」

 女は風馬の隣に立って、風馬を蔑む目で見てから、無表情に笑ってきた。まるで日本人形のように凛とした容姿だった。黒と白のコントラストが綺麗なセーラー服を着ており、それが影響しているからか、彼女には一つの棘のような美しさがあった。しかし、よく見ると、セーラーの袖が異常に長く、手が見えない。しかし、それすらも似合っているというなんとも素晴らしい人だった。

「んだよ。相変わらず男見ないな口調に男みたいな名前しやがって・・・・・・て、あ、ごめん、今の言葉は忘れろ」

「ユリ」

 玲が緊張感をもってユリの肩に手を置く。

「何?」

「武器を取り上げる能力とか持ってる?」

「持ってるけど、なんで・・・・・・って、あ、なるほど」

 ユリの視線の先には、時也がいた。彼女は、とてもすごいまるで鬼のような形相で、風馬を睨みながら、片手に銃を持ち、今すぐにでもそれを撃とうとしている。
 が、しかしこのご時世、銃など持っていたら警察とかそういう特殊な仕事にしているものではない限り、逮捕されてしまうので、詳しく言うと、サバイバルゲームなどで使うようなBB弾を今にも人間の急所めがけて撃とうとしていた。
 周りを見渡すと、他の組織のメンバーたちが食べ物を食べるのを中断し、料理にラップをかぶせていく。どうやらこれはよくあることらしい。そして、とても面倒くさい事らしいということが、その反応の速さからうかがえた。
 私は呆れ果てた顔の玲に聞く。

「あれを取り上げればいいの?」

「ああ、そうだ。だけれど、あいつ他にもいろんなもの所持してっから、できたらなんだけど、それも全部取り上げてほしい」

「了解」

 けだるげにユリは返事をし、瞬間移動で時也の隣に行き、その体に一瞬だけ触れ、離れる。
 すると、時也が持っていた銃が消えた。その代わりにユリがさっきまで彼女が持っていた銃を持っていた。その他にも、カッターナイフ、短刀がその手に握られていた。

「は!?」

「な!?」

 いきなり向けられていた銃が消えた風馬と、向けていたものが、ちゃんと手に握っていた自分の武器が無くなった時也が驚く。そして、ユリを見る。
 ユリはさも当たり前のようにその見るからに物騒な武器を持っていた。そして、微笑む。

「今使ったのは、奪取能力です。何か奪いたいものを連想しながら、その奪いたいと思っているものを持っている、もしくは入っている物に触ると、手にそれが移っているというもので、スリとかに使いやすそうですよね。まあ、そんなこと絶対にやりませんが。というか、すっごい物騒なもの持ってるのですね、暁さんは・・・・・・」

「ああ、いつ出動要請が出てもいいようにいつも持っている」

 時也がユリが持っている物を取ろうとする。が、ユリがそれを拒むように後ろにひっこめた。

「刃物や銃は、そんなに簡単に使っていい代物じゃない」

「大丈夫、そんなにたやすくやったりしない。というか、何か銃でやられたのか? その言い方だと」

「・・・・・・・・・・・・。それはここで言ったって空気を悪くするだけです」

「あるんだ」

 ユリは遠い目を現実に戻し、武器をぶっきらぼうに彼女に差し出す。

「どうでしょうね。これ、返します。けれど、使うときは考えてください」

「わかった、そうするとしよう」

 時也はそれを受け取り、ユリの言葉を了承し、頷いた。それを見て、安心したようにユリの顔は綻んだ。

「ありがとうございます」