コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 能力少女 ( No.128 )
日時: 2017/01/08 23:44
名前: ろろ (ID: HSAwT2Pg)

「殺す? 殺す……。僕を? 君は本当に頭がおかしくなってしまったのかな。まあ、僕を相手に一人で挑んで来ようとしているところから見るとすでに頭がおかしいらしいけど! 笑えるほどに、失笑してしまうほどに、嘲笑してしまうほどにおかしいことだけど! 君は……何がしたいんだい?」

 何がしたい? そんなのは決まっている。リナはただ自分の身体を取り戻したいのだ。それ以上のことは望んでいない。目の前にいる灯村城を殺すことは望んでいない。ただの障害物でしかない。彼女にとっては彼はただの邪魔者だ。目的のための阻害者。
 ニコニコと余裕をかまして彼女の前に立っている彼は彼女と同じようなことを思っているだろう。彼にとってもまた、彼女は邪魔者であり、障害物でしかない。

 だから彼女は吐き捨てるようにこう言った。

「そうだよ。でも、殺すと言っても物理的じゃあないよ。犯罪は犯したくないし、何より同じ墓標に立ちたくない。身体を取り戻しても捕まったら意味ないし。だから私は——人間として生きられないところまであなたを殺す」

「それはなんだかおもしろいね! 因みにどうやるんだい?」

「んー? やっぱり気になるよね。えっとね、こうする」

 すると彼女はいきなり走り出した。灯村城は余裕をかましていたため、反応するのに少し時間がかかってしまう。そしてやっと反応できた時には彼女は彼の隣にいる少女を殴っていた。
 バキボキという不穏な音が華奢な少女の身体から流れていく。当然ながら口からは赤い鮮血も流れていった。
 けれども彼女はひるむことなく、リナは自分の身体に——

「戻れええええええええええええええええええええええええええ!」

 もう一発全力の蹴りを入れた。

 彼女の体は吹っ飛んでいく。灯村城からの距離もだいぶと言っていいほど離れていく。

 けれども、彼女は地面には身体からダイブということを行わなかった。それはなぜか。彼女にハッキリとした意識が芽生えたからだ。偽りではない意識。

 しっかりと地面を掴んだ足はがくがくと震えているが、先ほどよりも人間味が増している。顔色も、ものすごくうれしそうに見ているも、ちゃんと生きていた。

 そして、蹴った張本人……ではなく身体は黒から薄茶色と髪色を変えてぽかんとしている。言うならば、こいつ何やってんだよ。というような顔だ。
 けれども、とてもうれしそうにしている姉を見ているといつの間にか自然と彼女も一緒に頬を緩めていた。

「ユリ! 見てみて! 体戻ったよ! 結構ちょろかった!」

「あー、うん、おめでとうリナ。おめでたいけれど体の状態を見ていると本心から心を込めておめでとうと言えない自分がいる。なんでだろう? やっぱり口から血を出して体が少し曲がってはいけない方向に曲がっているからかな」

 
「あ、そうだそうだ。戻さなきゃ。ほら! 完治! 血もえっと……ほらもうないよ!」

 黒髪の少女は慣れた手つきで一瞬にして能力で自分で自分に負わせた怪我を治してしまった。血はタオルを取り出してふき取った。
 薄茶色の髪の少女は自分もよくやることだがそれを見て少し呆れて溜息をついてしまう。自分の姉ながら恐ろしいとさえ思ってしまった。


「なあ、これはいったいどういうことなんだい? なんで僕の能力が一瞬にして解けているんだい? これは、いったい! なんだっていうんだ!」

 完全に少しの間存在を忘れ去られていた灯村城が突如、放置されていたことに起こったのか、自分のしたことが一瞬のうちになかった事にされたのが気に食わなかったのか、怒鳴り声と共に銃をリナに向かって発砲した。
 彼の能力は人心掌握のみ。だから彼の兵器であったリナを取られたのだからそれで攻撃するしか無かったのだ。けれど、能力者にとってそんなものはただのおもちゃのようなものだった。リナやユリのような者にとってはなおさらだった。

「は……」

 銃弾はリナの前で止まっていた。そしてまるでただの塵のようにサラサラと存在ごと消えてしまった。

「ユリよりは能力の力は小さくてもこのぐらいならできるんだからね! 銃弾如き塵にできるんだよ」

「そうそう。で、私のお姉ちゃんを貫こうとした拳銃はこれかな?」

 自分の持っている拳銃にどこかもの凄い圧力がかけられているような気がした。灯村城はまるで機械のようにその拳銃を見る。と、とてもか細く、綺麗な手が黒くスリムな銃を掴んでいた。その銃からはピキピキというような不吉な音が聞こえてくる。
 彼はたまらずそれを振りほどこうと引き金を引こうとした。が、それは叶わなかった。

「!?!?」

 ——手が、凍っていた。

 相変わらず自分て手元からはピキピキという音が聞こえてきている。そんな音の元凶たる彼女には一切ダメージはない。自分だけなのだ。だんだんと体の機能を失っているのは。身体が、凍ってきてるのだ。

 彼は侮っていた。この白いワンピースを着ている少女のことを。何も能力を持っていないただの凡人だと。けれど違った。彼女は森羅万象どんな能力でも使える能力者だった。コピーでも何でもない、オリジナルの能力。それはどんなにコピーをして強力なものにしてもかなうものではない。
 そんな恐ろしいものを灯村城は今まで侮って、凡人としていた。それがいかに愚かで愚物であったか。今更後悔しても、もう遅いことだった。

 拳銃を掴み、笑っている少女は笑っているものの、目の奥の光は鋭く冷たい。まるで手から出ている冷気のように見るだけで悪寒が起きる。
 灯村城はもう、何もできなかった。