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Re: 舞えし蝶は暗闇へ散る゜.:。+゜ ( No.52 )
日時: 2014/11/08 22:39
名前: 覇蘢 (ID: mXDJajPZ)



_その力は、強い。

息すら、苦しくなるほどに。

前にも……こんなこと、あったような気がする

前世の記憶が、そう、思わせる

あれは、いつだっただろうか。

……え?

その時、わたしはようやく気づいた。

スイレンの身体が、震えていることに。

わたしの、せい……だよね

この震えは、怒りからくるものではない。

おそらくは、恐怖。恐れ。

……わたしのせいで、スイレンに苦しい思いをさせてしまった。

前世のわたしは何も言わず、彼をおいて逝ってしまった。

『約束』を守らずに。

「やっと……やっと」

スイレンの声も、震えている。

まるで、なにかをこらえるように。

哀しさが、私の心に広がった。

「……翠蓮」

「……姫さん、何故なにゆえ私をおいて逝かれたのですか……ずっとお側にいさせてくれと約束したというのに……っっ!」

いつものひめゆりが知るスイレンとは違う。

まるで、逸れた母を見つけて縋る童子のよう。

「何年も待った…貴方が転生し、前世の記憶を取り戻すこの時を独りで、ずっとっっ」

掴まれている腕にスイレンの指が食い込み力強く握られている。

「……ッ」

「……もう、私を独りにしないでください」

「……翠、蓮」

低い、そして冷たい声。

ぞくり、と背筋に冷たいものが走る。

「もう、あんな思いは嫌なんです……藍鏨」

今のスイレンにはわたしなぞ見えてはいなかった。

見えているのは前世の、わたしの姿

「わたしは……藍鏨じゃない」

「転生したとしても貴方は貴方です…本当は貴方にも最初から記憶がある筈だった………姫さん。私が、怖いですか?」

「怖く、ない」

怖い筈、ない。

スイレンは父のような兄のような存在だ。

幼いころから大事にしてくれた。

「じゃあ、今の私は」

「……え」

一瞬、言葉に詰まった。

……怖い?

そう、怖いのかもしれない。

もちろん、スイレンが怖いのではない。

愛されてるはずなのに、愛されていない

わたしは、こんぜんとしてここにいるのか。

こんぜんとして皆から見られていたのか

では、ひめゆりとはなんなのか

「翠蓮は、誰を見てるの……?」

「へ」

わたしの言葉にぽかんと呆ける。

腕の力は緩み、その瞬間を逃さなかった。

「わたしは、姫百合。藍鏨じゃないわ……藍鏨は死んだの」

悲しさに歪むスイレンの顔を見ていられなくなり、わたしはそこを飛び出した。