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- Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜 ( No.1 )
- 日時: 2014/09/13 16:29
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: 0i4ZKgtH)
1話
人々が忙しなく行き交う夕陽が照らす都市群。
街並みを朱く淡い光りが影との境界線をハッキリと形作り、また分け隔てている。
夕刻。
または『幽哭』。
逢魔が時。
人外魔境の邪に連なる者どもが跋扈し始める闇の時間。
人間は知らない。
己がすぐ傍に潜む驚異の存在を。
虎視眈々と獲物を品定めする異形の輩を。
そして今日もまた蜘蛛の巣に絡め取られる蟲のように捕らわれる・・・。
人の気配は無い路地裏。
明るさとは無縁とばかりに切り取られた暗影。
その中からピチャピチャと気味の悪い粘着音が響く。
『何か』がいる。
それも得体の知れない『何か』が。
闇の中心、長い悍ましい触手を幾重にも伸ばし女子高生とおぼしき少女の躰を味わうように嬲る化け物。
「う・・・あ・・・」
少女の眼には光は無い。
虚ろに喘ぎ、怪物にその瑞々しい肉体を晒し、蹂躙され、全身を節くれ立った怖気立つ肉腫の波に身を任せていた。
異形は少女をいたぶるのに飽きたのか、それとも腹が減ったのか無数の触手で絡め取ると巨大な牙が連なる口を大きく開ける。
しどどに溢れる涎からすると後者かもしれない。
哀れな獲物。
闇の住人の餌食となり、その糧と堕ちる。
抗う術を人は持たない。
ただ『彼等』の欲望を満たす玩具でしかないのだ。
そう、この時までは・・・。
「オイタも対外にしとけよ、『業魔』」
可憐な美声。
突然在らぬ方向から見知らぬ少女の声が木霊する。
瞬間、凄まじい轟音。
同時に頭らしき部分が吹き飛び、絶叫を上げる怪物。
反動で少女が勢いよく放り投げられると何処からか現れた黒いパーカーの小柄な人影が受け止め抱き寄せた。
怪物はそれを敵と判断したのか触手の群れを我武者羅に振るい辺り構わず打ち付けた。
次々と穿たれ砕かれるコンクリートの外壁。
怪物の尋常ではない力が解る。
しかし迫る肉の破壊鞭を華麗に捌き、躱す謎の闖入者。
そしてすかさず懐から見事な装飾が施された黒金色の古式銃を取り出すと怪物に向けその引き金を迷うことなく引き絞る。
暗闇に迸るマズルフラッシュ。
連続して響き渡る轟音。
吹き飛ぶ無数の触手。
再び悍ましい絶叫を上げる異形。
素早く離脱し、日の当たる場所に着地する敵対者。
そこには形容しがたい白い生き物らしき物体がその人物の到着を待っていた。
「やあ。どうやら捕らわれた人間は無事だったみたいだね。治療は僕に任せて『業魔』の浄化をお願いするよ」
そう喋る白いウサギのような生物は横たえられた無残な少女にその長い耳を翳すと発光させる。
これで治療しているとのことらしい。
「・・・これで無事といえるのか?」
パーカーの人物の声は先程の少女。
フードを払いその幼さげな素顔を晒す。
年の頃13,4。黒髪のセミロング。鋭い眼つきは怜悧さを帯び、年齢以上の何かを感じさせる。
美少女だ。
それもかなりの。
「大丈夫。記憶も消えるし肉体の傷も元通りになるから心配ないよ」
少女の疑問に治療しながらにべも無く答える謎生物。
「そうか。なら『俺』はあの化け物を始末してくる」
そう言って少女は踵を返そうとすると、
「『俺』じゃないよね? アイン」
謎生物がそのつぶらな、何を考えているのか解らない瞳で見詰めていた。
「・・・『あたし』がカタをつける。これでいいだろ?」
溜息を吐き面倒臭そうに返事を返すアインと呼ばれた少女。
「うんうん、女の子らしくね。君はもう『魔砲少女』なんだから」
謎生物がもっともらしく頷く。
「わかってるよ」
そして少女は常人を超える跳躍力で壁を翔け上がり、いまだ苦しむ異形を視界に捉えるとニヤリと猛禽類の笑みを讃えた。