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- Re: 魔砲少女 アイン 〜GOTT KUGEL〜 ( No.5 )
- 日時: 2014/10/06 21:27
- 名前: Frill ◆2t0t7TXjQI (ID: ZxqcZXZM)
5話
ほんの一瞬、公園が真昼のごとく照らされ、直ぐに元の暗闇と静寂さが訪れる。
大地には何かが焦げた痕跡の後が残り、ブスブスと黒い煙りを燻ぶらせていた。
「・・・終わった。誰か来る前に早々に消えよう、クロム」
少女ツヴァイが白銀の髪とスカートをなびかせ、倒れ伏す少女に魔術的な何かを施している黒い謎の生物に言う。
「キキキ。丁度治療と記憶処置も終わった処だぜ。とっとと雌ガキ連れてズラかろうぜ、ツヴァイ」
黒いネコ?の様な生物の言葉に頷き、少女を抱き上げるツヴァイと呼ばれた少女。
そして瞬時にその場から跳躍、生い茂る針葉樹の背丈を軽々と飛び越え夜空に舞う。
満月に照らされ、たなびくプラチナブロンド。
幻想的で、眩惑的。
非現実。
此の世のものではない美しさ。
そして異能の少女は黒い小さな御供を傍らに連れて闇天の彼方へと姿を消したのだった。
遠野葉子は首を傾げていた。
昨日のいつもの部活終わりの帰り道、急に体調が悪くなり近くの住宅街へと助けを求めた。
親切な老夫婦が甲斐甲斐しく介抱してくれて大事には至らなかった。
自宅から家族が迎えに来て何度もお礼を言っていた。
「・・・う〜ん」
難しい顔をして机に頬杖をついて唸っていると親友の少女が不思議そうに声を掛けてきた。
「どうしたの? 葉子。朝からうんうん変な顔して・・・」
「あ、初美。実はさ昨日・・・」
葉子は同じクラスメートで部活仲間の篠崎初美に昨日の出来事を話した。
「そんなことがあったの・・・? やっぱり根を詰め過ぎだよ、確かに大会が近いから練習はキツイけど、葉子はエースで人一倍頑張ってるから・・・」
心配そうにする初美。
「しょうがないよ、先輩たちの最後の大会だからね。足を引っ張らないようにして、何としてでも優勝して華を添えてあげないと」
苦笑いしつつも気合い十分とばかりガッツポーズをとる葉子。
「まったくもう! 無茶したら意味無いってば!!」
プリプリと怒る親友にごめんごめんと謝る。
いつもの日常、いつもの風景。
何も変わり映えしない毎日。
しかし、ふと感じた違和感。
何処か調子の外れた弦楽器のように脳裏に刻まれる。
何かがおかしかった。
それが何なのか、解らない。
思い出そうとすると、得体の知れない怖気が背筋を伝う。
まるで思い出すのを拒絶するかのように・・・。
葉子がそんなことを考えていると始業ベルのチャイムの合図が鳴り響き意識の片隅へと思考を追いやった。
そしてそれは直ぐに忘却の久遠へと葬られた。
ホームルームが始まり担任が教室のドアを開けて入ってくる。
その後に続くようにひとりの少女が入室してきた。
黒髪の小柄な美少女。
唐突の闖入者にクラスがざわめき出す。
「あー、ごほんっ! 突然だが我がクラスへ転校生が入る。さ、自己紹介を」
担任がワザとらしく大きく咳払いし、騒ぐ生徒たちを静める。
紹介を促された黒髪の少女が壇上に上がり黒板に己の名を書く。
「皆さん初めまして。今日からこの付属繚蘭学園でお世話になります、『黒ヶ嶺 亜依(くろがみね あい)』です。よろしくお願いします」
ペコリと頭を下げる少女。
何気ないちょっとしたイベント。
今の時期に珍しい転校生。
だが、それは非現実の始まり。
序曲にしか過ぎない————。
学園の屋上。
その給水塔の頂上。
白いウサギのような生物が感情が無い瞳で街並みを見下ろしていた。