コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: サンマをください。 ( No.9 )
日時: 2014/09/13 18:21
名前: 珊瑚 ◆Wjgitxm3QY (ID: jyOVwInT)
参照: Potpourri

ひとり、嘆くように呟くと、

さっと風を切るような音が鳴った。

風の答えが耳から入り込んできた。


「身を包む優しき風よ 我が身を守れ」
風のグリモワを持つ俺は、風は思うがままに操ることができる。

この技は、自分の身、持ち物を、シールドのように風が集まって守ってくれるようになっているのだ。

最近はどんどん範囲の大きいシールドも作れるようになった。

(これで大陸中を包んだら、核兵器も落とせなくなるだろうな。)
と俺は思った。

その時——・・・


「おまえは グリモワの力を使えるのか?」
ふっと意味ありげに笑いながら、誰かが歩いてきた。

「—おまえは誰だ?…」
俺はつぶやきながら、風のシールドを解いて、後ろへじりじりと下がった。

右目が長い髪で見えなかった。

「俺?別に名乗るほどじゃない。どうせまたおまえとは会うだろうからな。」
意味深だ。

妙なカッコつけだ。とも面倒くさそうだとも、俺は思ってしまった。


「おまえ。絶対に油断するな。今日の夜、この国の兵隊がやってくる。おまえが撃たれる夢を見た。」
「はあ?なんでお前、リンダ語がしゃべれるんだ?。なんでこの国の兵隊がやってくるんだ?なんでそれをお前は知ってるんだ?」

「そんなことはどうでもいい。機関銃のように質問するな。お前だってリンダ語の方が分かりやすいだろ?」

「何で俺のことを知ったような——・・・」
俺がびくびくしていると、その少年は言った。


「分からないのか?とにかく、今夜はその辺の鳥でも味方に付けて、兵隊が来たときのために身を隠す準備をしておきなよ。風のグリモワを持ってるんだろ。」
その瞬間、その少年は影と化かして消えた。


(今のは誰だったんだ——)

少年が取り巻いていた空気から、悪寒と冷気が急に伝わって…

Re: サンマをください。 ( No.10 )
日時: 2014/09/13 21:12
名前: 珊瑚 ◆Wjgitxm3QY (ID: jyOVwInT)
参照: Potpourri

父上はわたしに言った。

きっと未来で、呪文を心の中で唱える術だって必要だろう。
と。

夜の修行は、眠いけど決して苦ではなかった。


夜中、稲妻がなった。

最近ずっと鳴っている。
この国では、よくあることだけど、光のグリモワを持つ本家のわたしの家系では、稲妻と言う意味を持つエクレアを
毎日のように食べ、雷様へお祈りを続けていたが、雨の降らない雷は、時折りなり続ける。

今日も稲妻が目に見えるような雷が鳴っていた。

その時、わたしはひとり静かに座っていた。

ビルとビルに挟まれた夜の路地裏

(グリモワチャーム・・・昏き世に光を灯せ)
心の中で念じると、路地裏は パッと光輝いた。

(もうすぐかもね。)
そろそろ、迎えがくる。


それを光が告げていた。


      ф

Re: サンマをください。 ( No.11 )
日時: 2014/09/13 21:09
名前: 珊瑚 ◆Wjgitxm3QY (ID: jyOVwInT)
参照: Potpourri



俺は、結局あいつのことを信じることにした。

兵隊なんか来たら困るからな。
とボソッと思った。

ということで、念を押して、あいつが言った通り、
空飛ぶ鳥かなんかを仲間に付けようか。と思っていたところだった。

風を操れるのだから 鳥も自由に操れる俺。
風の少しだけ良い所だ。

と言うことで、鳥を一匹連れてきた。
だが、残念ながら風が運んできたのは、傍の湖に浮かんでいたアヒルだった。

「グワァ———ッ!」
犬の遠吠えより大きい声で悲鳴を上げるアヒルに、俺は唖然としてしまった。

「グワッ グワッ!!」
白い、普通の、真っ白な、ただの、アヒル。


俺は風を通じて、鳥としゃべれるはずなのにアヒルが心を開いてくれないから、全く持って会話ができない。

「ああもう、なんで鳥でアヒルなんだよ〜っ!!」
俺は大声で嘆きながら、これじゃ不味いと思った。

アヒルが大声だしたら、敵に俺は怪しい人物です。今すぐに捕まえてくださいと言っているのと一緒なのである。

自然とマリンドール国の海の街の風景になじむ、ターコイズブルーのモコモコの鳥を想像していたのに。

一旦アヒルをそばに置いておくと、

「ああ、もう。我が風よ。俺になつく 空飛ぶ鳥を・・・」
と嘆き呪文を唱えた。

「グエッグエッ」
アヒルと遊んで取りあえず、家から持ち込んだパンを砕いてやると、すぐに静かになった。

「腹減ってたのか」

結構時間がかかってから、ターコイズブルーの想像通りの鳥が風の流れでやってきた。

毛並みはぼさぼさ そして目付きはカラスのようでちょっと怖いんだけど、懐くと可愛いものだった。
ターコイズブルーの羽をパタパタさせて。

『俺になんかようか?』
と言った。
風のおかげで何とか、俺の肩の上で、俺と風を通じて会話をした。

『おう。おまえなんて言う名前なんだ?』

『俺は、隣の大陸からやってきた。名乗る名はない。おまえが決めろ』
実に男前な鳥だった。

しかも隣の大陸からなので全く見たことのない鳥だった。
時間がかかったのは、遠くから連れてきたからなのだろう

もっとなんか、なんというか 可愛らしい鳥かな。と思っていたのだから、がっかりもがっかりだった。

『おまえ、もっとかわいい鳥がよかったんだろ。この辺に鳥なんていないから、しょうがないんだよ 呆れた 呆れた』

オウムのように口を動かす鳥

考え込んでいた俺は、閃いたように言った。

『よし、おまえの名前は、シャドーだ』
『シャドー、シャドー ネーミングセンス、悪い』
『何が良いんだよ…』

Re: サンマをください。 ( No.12 )
日時: 2014/09/13 21:08
名前: 珊瑚 ◆Wjgitxm3QY (ID: jyOVwInT)
参照: Potpourri


『近づいてこいよ』
するとおとなしくシャドーは近づいてきた。

毛並みをてぐしでそろえてやると、意外にもモコモコになった。

『おまえ、いいやつだな。見直した』
『——いい加減におまえは やめようぜ。俺は誠也っていうんだ』
『誠也 誠也』

やっとシャドーと打ち解けたところで、アヒルをどうするか迷っていた。

(コイツ可愛いんだよなー)
うるさいけど、愛らしくて 思わず持って帰りたくなる。

『あいつ、このまま置いていきたくないんだよな』

『あそこに、バケツ、ある。ちょっと歩けば、海があるから 水を汲んで、その中にあいつを入れよう。』
とシャドーが言ったので、その通りにしようと考えた。
アヒルも水が無いと可哀想だ。


俺は、そんな作業を行いながら、さっき現れた少年の言葉を思い出した。

さっきお前が撃たれる夢を見た——…

でもあいつは、ひとつ見落としたことがある。

(それは 俺が本当に風のグリモワを持ってるってことだからな)

俺はアヒルを水につけてやると、シャドーがアヒルと会話してくれた。

『コイツ、名前、ユキ。すぐそばの海のアヒルなんだと。さっきのパンが美味しかったから、また食べたいと言っている』

『はあ?』
『だからついていくつもりらしい』
丁度いいな。

この三人で行動しよう。

俺はアヒルのユキを連れていくかは迷ったが、自分が連れてきた鳥だ。
望んでいるなら連れて行こうじゃないか?

『俺はやることがあるから、シャドー面倒見てくれるよな?』
『いいよ。1分だけね』
『ケチだなー』

「グリモワスキル 我が手の風よ 周囲の敵音を読め」
その瞬時に 大量の音が入ってくる。


音、音、音の音

犬の遠吠えから、黙々と音を立てる煙突からの煙。


・・・足音 足音 足音

(…ほんとうにすぐそばに・・?!)

馬車の音、銃の音、悲鳴


瞬時にそれは薄れ、周囲の音は終わった。

Re: サンマをください。 ( No.13 )
日時: 2014/09/14 09:40
名前: 珊瑚 ◆Wjgitxm3QY (ID: jyOVwInT)
参照: Potpourri

「ぐっ・・・」

俺は、その場に膝をついた。

グリモワの限度が切れたのだ。

どういう意味かと言うと、グリモワスキルを使うごとに、酷く体力を消耗するので、おおよその回数の所で止めておかないと、気絶してしまう。

するとそのまま、第二のスキル

つまり、チャーム属性の羽 が自動で発動する。

(『一人でグリモワスキルを使い過ぎてはだめ』)

母上の声が記憶の内側から甦る。

ここで一人、気絶したらどうなるか分からない。
もしかしたら幻のサンマを求める地図が奪われるかもしれないから。

「グワーッ!」
ユキとシャドーが何か言いたがっているようだが、グリモワスキルが使えないので、会話もできない。

とりあえず二人を手にすると残りの力で歩き出した。

本当は 食べたり寝たりで体力を温存したかったのだが、兵隊の足跡がすぐそばまで来ている。


        ф

暫く歩いていると、どうしても足がもつれて歩けないことに気付いた。

さっきから、鳴き声を上げるユキとシャドーも、俺に休憩をとれと告げている気がした。

俺はいったん、すぐそばの芝生に荷物を置くと、仲からお茶を取り出して、二口含んだ。

本当は もう少し飲みたかったのだが、後のことを考えると…。

パンを食べながら、先ほどから煙臭いのが気になった。
少し食べるだけで、肩の荷がおさまり、第二の羽の力で、またユキとシャドーと会話を始めることができた。

『私、水が無くても大丈夫だし、あのパン美味しいんだけど身体に悪いから野菜かアヒルフードに変えて下さらない?』
と文句を言い始めた。

『ん。じゃあ、ユキの水は抜くけど、野菜は今ないから ちょっと我慢してよ』

『わかったわよ。煙臭いんだけど何かしら?』
ユキはおしゃべりなようだ。
良くしゃべるが、肩の上に乗ったシャドーは何も言わなかった。

『あ、ユキにも匂う?』
と俺は言った。
とある予感が脳裏をよぎったその瞬間



バ———————ンッ!!


「?!」
すぐそばで、銃弾の音、瓦礫が崩れる音、人々の悲鳴が聞こえてきた。
俺は、すぐさまリュックを背負い、二人を肩に乗せ、様子をうかがった。


『この国、なんかおかしいぞ。』
俺は呟いた。
何が起きているのかもわからない。

すぐそばに会った大きな大木に身を寄せて、腰を下ろした。

胸の鼓動がどくんと高鳴る。

(…おまえ。絶対に油断するな。今日の夜、この国の兵隊がやってくる。おまえが撃たれる夢を見た。)


何なんだ?


銃弾の音だけではなくなってきた。
ライフガンの音もしてくる。


・・・このままじゃ危ない。

俺は、ユキを見た。


ユキは、地元に還すべきだ。
育て方も解らない。

どうすれば良いのかもわからない。

今の俺には、ある意味足手まといになる。


ド————ンッ!!

俺の元に、瓦礫のカケラが風に吹かれて飛んできた。

だんだん熱くなってくる。

(もうそばに居るんだな?!)