コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: その身体に、甘い牙痕をつけて。 ( No.6 )
日時: 2014/09/27 22:44
名前: 覇蘢 (ID: FOqQFS6Q)


私はあの人と共に生きる道を選んだ。
時がたった今も、
後悔なんてしていない。

でも、予想と違っていたこともある。

暁斗あきとは私の我儘に苦労しそうだと言ったけれど
最近はむしろーー。


『暁斗の馬鹿!もう知らない!』


「はあ……」


また、ケンカだ。

勢いで家を飛び出し、行く当てもなく走り
遠くに来てしまった。

ふらふらして、
たどり着いたのは、暁斗と出会った思い出の湖。
……きっと、ここなら見つからない。


「こんなことばっかり……」


座り込んで、ため息をつく。
前のケンカは……何日前のことだろう。

家を飛び出すなんてめったにないけれど、
些細なことが原因で
ついケンカになってしまう。

……というか、私が一方的に
怒っている気がする。


「……きつく言い過ぎたかな。でも、昔に比べれば私だって……多分……」


ひとりでうじうじと反省する。
今も昔も、暁斗の前では怒ったり泣いたり、
まるで子供みたいだ。

それに、最近、暁斗はなんだかとてもーー。


「見つけた」


「…………!」


思わず体が反応してしまう。
振り返りそうになるのを慌てて止めて、
地面を見つめたまま、意地を張った。


「この場所なら見つからないって思ったんだろ」


「…………」


「残念、どこにいても見つけるから。けど、さすがに遠くまで逃げすぎだよ?」


「……逃げたんじゃない」


「はいはい」


足音は私のすぐ後ろで止まった。

振り返れば、きっと微笑んでいる彼がいる。
だから、怒っているはずの私は
ますます振り向けない。


「……それで?今日は何がご不満だった?」


「暁斗が、みんなの前でくっつくから……ダメだって、この前も言ったのに……」


「はずかしかったの?」


「…………。直してくれるまで、知らない」


「…………」


暁斗が小さく笑って、動く気配がしたーー。


「お前が好きだよ。だから、一緒に帰ろう」


何より優しい言葉が振ってきて、
私は顔を上げてしまう。

そこには、最近とても優しく笑うように
なった、暁斗がいた。


「…………」


「ん?なんでそんなに睨むの?」


「……こんなの、勝てない。ずるい」


何を言ってもダメな気がして、
せめて口をつぐんで反抗の意を示す。

暁斗はそんな私と、夕日に染まる湖を
しばらく眺めていた。


「ねえ、芽衣めい


不意に、静かに呼びかけられる。


「あの日、この場所で……お前の手を握った時から俺たちは、始まった。だから今、俺のそばにはお前がいる。今だけじゃない。朝起きたら隣にお前がいて、呼びかければいつでも振り向いてーーこんなに幸せだ」


暁斗の瞳が、静かに夕日に揺れていて
私は思わず見とれてしまう。

そう、私たちはここで出会って、
たくさん悩んで……
最後には結ばれた。


「芽衣は?幸せ?」


「私はーーーー」


そんな風に聞くなんて、やっぱりずるい。
答えなんてひとつしかない。


「悔しいけど、幸せ」


だからせめて私の気持ちを付け加えると
暁斗は声もなく笑った。


「素直じゃないな。でも、そういうところもやっぱり好き。……だから、一緒に帰ってくれる?」


「……うん」


いいけれど、でも。
今日はあまりに負けっぱなしな気がする。
せめて一回くらいは、反撃させて欲しい。

だから、立ち上がろうとした暁斗を
とっさに引き止めた。


「……どうした?」


「…………」


「言ってくれないと、わからない」


「…………」


「芽衣……?」


「…………」


私とあなたのはじまり、それは。


「行かないで」


「ーーーー」


あの日、発した言葉……
暁斗は、たまらず笑いはじめる。


「やられた。本当かわいいな、お前は」


言葉と共に体を引き寄せられる。
近づく気配に、そっと目を閉じた。


「どこにも行かない。ずっと、一緒だーー」

                  ・:*+.End・:*+.



■思い出の場所

ーーーーーーーーーー

シチュエーションをお借りし、制作してみました。
「二人だけの思い出の場所」っていいですよね。
ああ、ほんと。新婚って初々しいな。←by.覇蘢