コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: SANDAI ( No.28 )
- 日時: 2014/10/03 23:04
- 名前: いろはうた (ID: 5obRN13V)
- 参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode
「童謡」「雪うさぎ」「恋慕」
起
かごめかごめ
籠の中の鳥は
いついつ出やる
夜明けの晩に
鶴と亀が滑った
後ろの正面だあれ
*遠くからかごめ歌が聞こえる中、桜子は一人で雪を触っていた。
かごめ遊びの中に混ざる気はなかった。
もし、中央にいるこに「だあれだ」と問いかけて、桜子だってわかってもらえなかったら……?
内気な桜子の頭の中を嫌な考えがとうとうと巡り、輪の中に入れず、ただ雪と戯れていた。
こぼれた息が白く染まって空気の中に溶けていく。
ひどく寒い。
袴も濡れて余計寒くなってきたので、そろそろ家に帰ろうと立ち上がったとき、桜子はとびあがった。
すぐ横に見知らぬ男の子がいたのだ。
黒っぽいまんとにはんちんぐ帽をかぶっていて、いかにも大正男子といういでたちの
桜子とそう歳の変わらぬ少年がいたのだ。
桜子はあんまりにも驚きすぎて口もきけなかった。
「おまえ、名は」
ひどくぶっきらぼうに問われて桜子は半泣きになった。
こんなに乱暴な物言いをする男の子は見たことがない。
桜子が知っている数少ない男の子は皆お上品に静かに黙っている子ばかりだったのだ。
女性に向かって、おまえ、だなんて夫が妻に使う呼び方なのに……!!
「さ、さくらこ……」
でも、心の中ではいくらでも言えるが、見知らぬ男の子が怖くて、
桜子は蚊が鳴くような声でこたえた。
「ふうが」
あまりにも断片的に言われて桜子はそれが彼の名前だと気付くのに少しかかった。
少し落ち着いてみてみれば、ふうがは綺麗な顔立ちをしている。
身なりもいいし、もしかしたら華族の子なのかもしれない。
「桜子、脱げ」
少しその顔立ちに見とれてしまったから、油断していた桜子はぽかんと口をあけた。
「ぬ、ぬっ!?」
「袴、濡れているから」
どうやら風邪をひかぬように、との配慮の上での言葉だったようだが、
この寒さの中、袴を脱いだ方が風邪をひくとは思わなかったのだろうか。
なにより、恥ずかしすぎる。
女たるもの殿方にそう肌を見せてはならないのだ。
「も、もうすぐおうちに帰るから平気よ」
「ふうん……」
ふうがはつまらなそうに唇をとがらせた。
「もう、帰るのか」
「ええ。
うちで、ほっとちょこれぇとが待っているだろうから」
そう言いながら、桜子はこの少年がさっきまでかごめの輪の中にいた一人だと気付いた。
「かごめはしなくてよろしいの?」
「あんなのつまらない」
「そうなのかしら?」
「おまえのほうが面白そう」
男の子はぷいっと横を向きながらそう言った。
その耳が赤いのは寒さのせいだろうか。
桜子はうふふっと笑った。
最初は怖かった少年だけど、話しているうちに少しだけ怖くなくなってきた。
「ねえ、それなら、うさぎさんの目を探して下さらない?」
「うさぎ?」
「ほうら」
桜子は作りかけの雪でできた小さなうさぎを足元から拾い、ふうがの目の前に掲げた。
そのうさぎの目があるべきところには何もなかった。
「なんてんの木を探しているのだけれど、見つからなくて……」
「……じゃあ、これ、やる」
ふうがはふところに手をやると、何かを取出し、それをうさぎにぐりぐりと押し付けた。
「な、なに、このがらすだまは……?」
本来なら赤いなんてんの実があるべきところには、青いビー玉が輝いている。
「びーだま」
「……びいだま??」
「……やる」
もう一度うさぎに視線を落とす。
赤い色は白い雪に映えてとても美しいだろうけど、この青い硝子玉は雪をより輝かせている。
うさぎは芸術品のような美しさをもって桜子の手におさまっていた。
「ありがとう……!!」
嬉しくなってお礼を言ったら、ふうがはびっくりしたような顔をした後、ものすごい勢いでそっぽを向いた。
桜子はまた、うふふ、と笑った。
これは、十数年前の大正の冬のある日のことだった。
目を閉じれば、あの雪うさぎが目に浮かぶ。
吐息が口から漏れて、白くなって消えた。