コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: SANDAI ( No.41 )
日時: 2014/10/26 22:40
名前: いろはうた (ID: 5obRN13V)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

うーん……
このSANDAI。
アダルトな内容がないですよね〜
ということで、今回はビターな内容にしようかと!!
とりあえず、えーい☆





〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜










*ぼんやりと光を感じて薄目を開ける。

オレンジ色に照らされた塗装の禿げた天井が見えた。

数度瞬きをして、小さく欠伸をする。

ああ。

だるいし眠い。

もう一眠りしようか。

そう思った時、かすかな悲鳴のような音が聞こえた。

悲痛な女の声。

怒鳴る男の声。

言い争いをしているようだ。

男の声の方にひどく聞き覚えがある。

おれの兄貴の声。

おれなんかと違ってすごく出来のいい兄貴だ。

全てが完璧。

容姿も、地位も、学業も。

……その性格をのぞけば。

相手の女の声は、兄貴の恋人のものだろうか。

まあ、いい。

どちらにしろ、おれには関係ない。

今度こそ目を閉じようとしたとき、おれのいる洋館の一階のドアがバタンとしまった。

女のすすり泣くような声が聞こえる。

洋館の中から。

おいおい。

嘘だろ。

驚いて固まっていたら、確実に足音はおれのいる部屋に近付いてきて、

階段がきしむ音まで聞こえてきた。

言い争った挙句、こちらに逃げ込んだようだ。

おれは舌打ちをすると、ベッド代わりに使っていたボロボロのソファから立ち上がると、

ドアの前に腕を組んで立った。

案の定、すぐにドアノブが回り、耳障りな音をたてて塗装の禿げたドアが開く。

それをこちらからぐいっとひっぱってやると、

栗色の髪をした綺麗な女がよろけながら小さく悲鳴をあげて部屋の中に足を踏み入れた。

女の手を掴みこちらに引き寄せ、その口が悲鳴をほとばしる前に、すばやく手でふたをする。


「……悲鳴なんかあげんなよ。

 おとなしくしてろ」


女はくぐもった声で、何事か言おうとして、さらにもがいた。

部屋の中にまさかおれのような人間がいるとは思わなかったらしい。

手に濡れた感触がした。

女の涙かもしれない。

べたついて、不愉快だ。

おれは寝起きですこぶる機嫌が悪かった。


「うるさい黙れ」


低く言ってやれば、腕の中で華奢な体がびくっと震えた。

動きが弱々しくなる。

おれはため息をつくと、手を放してやった。

数歩距離を取る。


「……アンタ、兄貴の女?」


女の頬には涙の痕が残っていた。

恐怖で見開かれた瞳が驚いたようにおれの制服に目を走らせる。


「柊哉の、弟、さん……?」


声はかすれていたけど、凛としていた。

髪は乱れ、目も充血しているが、綺麗な女だ。

大学生くらいに見える。


「そうだけど」


柊哉はおれの兄貴の名だ。

女じゃない、とは否定しなかった。

どうやらそうらしい。


「兄貴と喧嘩したんだ?」


女はうつむいて何も答えなかった。

まあ、当然だろう。

兄貴は、見た目が言い分、女にモテる。

本人も女は嫌いじゃないからタチが悪い。

女遊びもひどいから、彼女になるやつは気の毒だと他人事のように思ったことは何度もあった。

しかも、傲慢で、自分勝手だ。

おれのような弟は人間のクズとしてしか見ていない。

おれは自分の兄貴が大嫌いだった。


「アンタ、馬鹿じゃないの。

 なんで兄貴みたいなのと付き合ってるわけ?」


幸せになれないのなんて目に見えている。

女はなにも答えない。

悲しそうにただはらはらと涙をこぼしている。

おれは舌打ちをした。

女の涙は嫌いだ。

こっちが悪いことをしているような罪悪感に陥らせる。


「……アンタは、悪くない」


吐き捨てるように言った。

悪いのは兄貴だ。

事情など知らないが、そうに決まっている。

女は首を横に振った。


「別れたら?

 ……あんな男」


嫌悪も隠さずに言ったら、女はまた首を横に振った。

ため息をつく。


「……あっそ。

 おれ寝るから」


関係ないことのはずなのに、なんでおれがむしゃくしゃするんだ。

それがまた腹が立つ。

ソファに向かおうとしたら、あの、と小さい声が聞こえた。


「何?」

「もうすこしだけ、ここにいてもいい……?」


すがるような声だった。

外には兄貴がまだいるかもしれない。

外には出たくないのだろう。


「……勝手にすれば」


そうつっけんどんに言ったら、小さく、ありがとうって聞こえた。

別に何もしてないし。

そう言うのもなんかしゃくで、おれは黙ってソファに横になった。


















「アンタ、また来たの」


これで何回目だろう。

この前かくまってくれたお礼とか言って、兄貴の女がまた来た。

おれが学校が終わったら寝に来ているだけのなんの面白みもない洋館に。

少なくとも1週間に一度は必ず来る。

なにかしら手土産を持って。

メロンパンだとか、スコーンだとか、明らかに手作りであろうものを持ってくる。

しかも、めちゃくちゃ美味い。

兄貴も食ったことがあるのだろうか。


「馬鹿だな」


おれは、女の細い手の甲にできている火傷の痕を見ながら言った。

その火傷の仕方からして、オーブンで負ったものに違いない。

馬鹿だな。

また思った。

おれなんかにスコーンを焼くために、火傷なんかしている。

せっかくきれいな手をしているのだから、もっと他のことをすればいいのに。

いや。

期間限定の手だ。

その手は、また兄貴に向くだろう。

おれには……関係のないことだ。


「私、キコっていうの」


女、キコが不意にそう言った。

アンタ呼ばわりが気に入らなかったらしい。

ちらっと見上げると、キコはじーっとおれを見ていた。

期待に満ちたまなざし。

ふいっと視線をそらす。


「……彰哉」


ぱっとキコの顔が明るくなったのが分かった。

目がその笑顔にくぎ付けになる。

キコが笑うとその場が華やぐ。

ここ何回か会いに来てくれた時には、つっけんどんな態度しかとらなかった。

これ以上、近づくのが怖かったからだ。

これだから、嫌だったのだ。





おれは、キコに惹かれている。






認めたくない事実だった。