コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: SANDAI ( No.53 )
日時: 2014/11/15 00:17
名前: いろはうた (ID: 5obRN13V)
参照: http://www.kakiko.cc/novel/novel1/index.cgi?mode

……この際なんでもできちゃいそうなお題なので、いろはうたにしては珍しく、
洋風?というか異国のお話にしようかと思います。
一度こういうの書いてみたかったんですが、
いろはうたの中のとめどない和風LOVEが書かせてくださいませんでした……




【霧】【花】【目】




〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜








つい先程、メイヴェ王国は滅びた。

隣国である、オレン帝国に攻め滅ぼされたのだ。

メイヴェ王家第十一王女であるラハナは炎に包まれる宮殿を、

助けに来てくれた第三王子である兄のムスルと走って抜け出したところだった。

後からは敵兵が走ってくる音が聞こえる。

耳元で何かが爆ぜる音が立て続けに起こった。

真っ暗な森の中を兄と手を取り合って走る。

母は、乳母は、兄弟たちはみんなどうなってしまったのだろう。

息が苦しい。

木々の間をあてもなく縫うように進んでいたら、不意にムスルはぴたりと足を止めた。

ひたすら走り続けていたラハナには何が起こったかがすぐにはわからなかった。

やがて、月の光の中、木の影から複数の男たちが姿を現した。

鎧や服装からして、明らかにオレン帝国の者たちだ。

いくら剣術に秀でているムスルでもこの人数を、

足手まといのラハナをかばいながら相手にするのは不可能だ。

どうしよう。

どうすればいい。

ラハナをかばうように立つムスルの背から少し顔を出して、ラハナは息をのんだ。

あの、中央にいる男。

オレン帝国の将軍でもあり、第三皇子でもある、オレン=イェリだ。

浅黒い肌や野性的なまなざしが、どこまでも自分とは違いすぎて怖い。

あの男は、オレン帝国の中でも最も武芸に秀でているとラハナもきいたことがある。

もはや、二人とも生きてここから抜け出すのは絶望的に等しい。

遅れて背後から複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。

ようやく、ここまで誘導されたのだと気付く。


「……ラハナ。

 おれがひきつけておく。

 ……おまえは、逃げろ」

「に、逃げません……!!」

「ラハナ……!!」


ムスルを置いて逃げる気などさらさらなかった。

どうせ死ぬのならば、兄と共に死にたい。


「かばいあって随分と麗しいものだな」


揶揄するような響きに、ラハナはそちらを睨むように見つめた。

イェリは嘲るようにして笑っていた。

そう。

すべての元凶はこの男。

この男が我が国を攻めたりなどしなかったらこんなことにはなっていない。

真っ黒な感情が胸に宿る。


「ラハナ、か……。

 たしか、この国の王女だったな」


簡素だが上等な姫としての服装と、兄が名を呼んだことによって、こちらの身元がばれてしまった。

イェリのまなざしが、ラハナの全身にさっと目を走らせた。

殺される……!!


「ふん……」


イェリは鼻で笑った。

殺される恐怖に震えているのを笑われたみたいで、強烈に恥ずかしくなった後、

炎よりも熱い怒りがわいてきた。


「ラハナ王女。

 おれの元へ来い」


何を言われたのか咄嗟には理解できなかった。


「馬鹿なことを言うな!!

 ラハナは渡さない!!」

「おれの元へ来れば、おまえの親兄弟や家臣たちは一人も殺さぬと約束しよう」


断れば、兄もろともここで死ぬ。

大切な大切なムスル兄様。

こんなところで、死なせたりなどしない。

イェリの妾にでもなるのだろうか。

それとも下働きにでもされるのだろうか。

なんだっていい。

かまいやしない。

ラハナは、まっすぐにイェリの目を見た。


「いいでしょう。

 貴方の元へと参りましょう」

「ラハナ!!」


イェリが満足そうに微笑んだ。

兵が、ラハナからムスルを引き離し、連行する。

ごめんなさい、ムスル兄様。

でも、私は後悔などしていない。

これでみんなが助かるならば、私はなんだってやる。


「ラハナ!!」


ぎゅっと目を閉じて、ムスルの方を見ないようにする。

ふわりと体が浮いた。

驚いて目を開けると、地面が見えた。

イェリに片腕一本で抱き上げられたのだと気付く。

ほとばしりかけた悲鳴を何とか飲みこみ、きつく唇を噛みしめる。

イェリは兵たちに支持を出すと、ラハナを抱えたまま歩き出した。

振動がじかに伝わり、落ちないようにするために、イェリのたくましい方にすがりつく格好となる。

なにがおかしいのか、イェリはのどの奥でと笑っている。

……これからどうなってしまうのだろう。