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- Re: えっ、今日から私も魔法使い!?【新章スタート☆】 ( No.166 )
- 日時: 2015/04/04 23:33
- 名前: 雪兎 (ID: FiSCMDMo)
第六十一話 <何でもアリな体育祭編>
パァンッ!!
熱き戦いの始まりを告げる、今日何回目かのピストルの音が鳴り響いた。
選手が一斉にスタートする。桃チームの気合いの入りまくった表情は、見ているこちら側が思わず引くほどだ。
ふん。まあ、一応赤チームを応援しますけどね。これで一位にならなかったら、なんか罰ゲームでも考えとこ…。
私は、腕組みをしながらニヤリと笑った。
☆
トラックの上。6人がゴール目指して突っ走る中、ディックは隣を走るジークに顔を向けた。
「おい、ジーク・オースティン!!…ずいぶんと、余裕綽々のようだが、な。今日、お前は、公衆の面前で大恥かくことになる…っからな!あの時の、…っ借り、ハアッ。…返してやる、よ!」
徐々に息を切らしながらも、余裕の表情で喋りかけるディックを、ジークはちらりと一瞥した。
「ああ?何、知り合いだっけ。…わりぃわりぃ、覚えてねーや。」
「……ッ!き、貴様」
自分はこの日のために、必死に体を鍛えてきたというのに。この男は、俺のことを覚えてすらいないだと…!?
ディックは、ギリリと唇を噛みしめた。許さん、必ず…!
ディックは、グラウンドの中心に並んでいる仲間に、ちらと目配せをした。
「…おい、最後に忠告してやる。せいぜい、足元に気を付けておくことだな…!」
絞り出すようなディックの言葉。だが、ジークはそんなものなど聞いていなかった。
ただ真っ直ぐ、宙に浮かぶ「それ」だけを見つめて。
「へっ。さあ雑魚ども!俺を見ろ、俺を恐れろ!お前ら全員、このジーク様の敵じゃないってこと。思い知らせてやるよッ!!」
———言い終わると同時に。
ジーク・オースティンの姿は、一度トラックから「消えた」。
ザワリ。
会場の誰もが、その燃えるような赤毛を目で追った。
そして、目撃した。
———ジークが、七メートルの大ジャンプをするところを。
そして、息をのんだ。
———その姿の、あまりの美しさに。
狼のようにすばやく、鳥のように優雅にゴールテープを切ったその男の口には。
ニヤリと、余裕の笑みを浮かべたその唇と唇の間には。
糸から引きちぎられた、あんぱんがくわえられていた。
湧き上がる大歓声と女子の黄色い悲鳴を一身に受け、ジークは高々と右こぶしを天に突き上げた。
☆
「何…で」
一方ディックは、ゴールすることも忘れてグラウンドに座り込んでいた。
「…ディック」
左後ろに、親友の声が聞こえる。だが、今の彼の耳には届かない。
「俺が…。俺は…!」
届かなかった。作戦も能力も。
あの男の前には。どんな障害もいともたやすく切り抜けてしまう、奴の前には。
すべて、無駄…だったのだ。
考えた作戦も、必死の鍛錬も……この恨み、いや…妬みも。
———ディックはしばらく、そこから動くことができなかった。
彼はジークに負けて初めて、今まで彼に足りなかったものを知ることができたのである。
☆
「すっ…ごい!」
私は、いつの間にか握りしめていた手のひらを、体の横にだらりと垂らした。
「…ひゃー。鳥肌、鳥肌たったよ、僕…!」
隣に立つエリオット君が、自身の両腕を何回もさすった。
リュネも、コクコクと何度もうなずいている。こりゃ、罰ゲームなんて言ってらんないなあ。
そのとき。
「おーーい!フィル、出てこいや、フィールー!」
お、ジークか…。ふふ、ちょっとからかってやろう。
「モノマネ。一発ギャグ、パイ投げ…」
私は、思いつく限りの罰ゲームを次々とつぶやいてみた。
視界の隅に、ジークの足が映る。
「お、いたいた。よう、ちゃんと見てたか?この俺様の…って、何ブツブツと…」
「変顔、熱湯風呂、金だらい……ん?どうしたのジーク。」
「やー、だからさっ。ちゃんと見てたか?俺の華麗なゴールを!!」
「うわっ、どうしようゴメーン!考え事してて見てなかったあー!」
大げさに驚いて見せると、後ろでキャンディさんが噴き出す音が聞こえた。
「ハア!?んだとこの…」
うわっ、引っかかったよっ。…ぷぷぷっ!いつもからかわれてる分、これは気分がいいかも。
私はたまらず噴き出した。
「ぷっ……あはははっ!もう、嘘だってば。ちゃんと見てたよ」
「…マジ?」
さっきのことがあったせいか、疑りぶかそうに聞いてくるジーク。
私は笑顔で、うんとうなずいた。でも恥ずかしくて、思わず下を向いく。
…うん、ちょっとカッコ良かったかも…?
「はっ。引っかかってやっただけだっつーの」
ジークの声が聞こえた、その直後。
頭にふわりとした感覚。
「なっ…!?」
顔を上げると、いつものニヤニヤ笑いを浮かべたジークの顔が。
そしてそのまま、ばっと身をひるがえした。
「もうっ!子ども扱いしないでよーっ!!」
背中に向かってどなる。でももう、ジークの姿は人ごみの中に消えていた…。
…うう、やっぱりジークには勝てないってことなの…。
☆
そのやり取りを見つめていたエリオットは、一人静かにつぶやいた。
「よし…、僕だって。」
今回は無駄に長くなってしまいすみません!
余談ですが、フィリアが言った罰ゲームをジークが実際にやっている所を想像した人は、私だけではないはず。
次回、第六十二話。お楽しみに!