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えっ、今日から私も魔法使い!?【参照2000突破感謝!!】 ( No.215 )
日時: 2015/09/21 21:33
名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)

第八十五話

とある美しい滝で、少女と少年は遊んでいた。


少年は、少女と過ごす時が大好きだった。貧しくても、毎日が楽しくて仕方がなかったのだ。


その日、少年は考えた。魚を取って、少女を喜ばせよう。そうしたらきっと、自分のことを見てもらえる。褒めてもらえる。

だが、美しくも厳しい自然は、少年の小さな体をあっという間に押し流した。

少女はあぶない、と叫んだ。だがその声はもう、少年には聞こえはしない。


助けたい。助けなければ。誰か。誰か!



その時、どこからか声が響いた—————



『———娘。貴様、友人を助けたいか?』



少女はうなずくしかなかった。得体のしれない声に、従うしか方法は———。


声は、ふっと笑った。そして………、

『良かろう—————』



               ☆




「あれ………?何、だろう」

私は、寮の自室で目を覚ました。何か、夢を見ていたような気がする。まあ、どうでもいいけど。


体育祭が終わり、今日から普通の授業に戻る。校内には、祭りが終わった後の、何か物悲しい空気が漂っている。


部屋を出ると、ちょうど親友も顔を出している所だった。「あーっ、フィルっち!昨日はオツカレ—☆」「うん。リリアンも」


そうそう、こういうのだよ!体育祭もいいけど、私は何気ない日常の方が好きだった。だって、たくさんの友人に囲まれて過ごす楽しさを、知ってしまったから。



「ちょ、どけどけどけぇーーーっ!!」

「え!?この声ってもしかして、」


超高速で寮の廊下を駆け抜けてきたのは、見慣れた赤毛の少年。見た目、何かに追われてるみたいだけど……


「ジーク?あんた、こんなトコで何して」「おう、ちょうどよかったぜフィルっ。ちょっとお邪魔するぜ〜☆」


はあ!?ちょっと、なんで私の部屋に、


「……ジーク・オースティン!!貴様ァ、どこへ隠れたァ!」

「う、うっわぁー。この声はもしかして、もしかするとだよぉ〜…」


リリアンが、身をすくめる。私はゴクリと唾をのみ、廊下の先を見つめた———


ドスン、ドスンと音がしそうな勢いで、隊長が歩いてくる。顔には憤怒の表情を浮かべ、手には何か布のようなものを持っている。


「……フィリア・ヴァレンタイン、リリアン・ウォルトン。……あの馬鹿者を見なかったか?」「ば、馬鹿者、とは」「……ジーク・オースティン、だ」


ひ、ひええええ!

声のトーンは静かだけど、それが余計に怖い。これ、見つかったらジーク、殺されるパターンだ…。


「…奴め、俺の上着におかしなものを縫い付けたのだ。今日こそは、奴を成敗してくれる……!」こぶしを握る隊長の手には、リボンやレースが縫い付けられた、無残な純白の上着が———


うん。これは自業自得ですね。


               ☆



「ひでーじゃんか、フィル、リリアン!絶対見つからないはずだったのによ!!」頭に大きなこぶを作ったジークが、涙目で訴えてくる。

こいつ、ちっとも反省してない!


「あんた、人の部屋に勝手に入って来て何言ってんのよ!大体いつもあんたはね———」「まあまあ、フィルっち〜」


と、その時。「———騒がしいぞ、一年」


えっ、誰?「す、すみません!」


そこにいたのは、銀髪をツンツンと逆立てた、気難しそうな男子生徒だった。


「———誰だコイツ?」「え〜、知らないのぉジーク君。生徒会書記の、実質NО.3!ジュリオ・バーナーズさんだよ☆」


生徒会書記…NО.3?この人が———



「———ふん。さすがは『能無し』と、その愉快な仲間たちという訳か。寮でのルールも知らんとはな」「え……?」


その言葉に、ドクンと心臓が跳ねる。もう忘れかけていた、心が凍り付くような言葉。

ジュリオさんの冷たい目が、真っ直ぐに私をとらえている。なぜか、目をそらすことができない———


と。私をかばうように、二人が前に出た。ハッと我に返る。


「おいアンタさ。生徒会だからって随分エラそうじゃん?そういうのは、フィリアの剣の腕を見てからにしろよ」「う〜ん、能無しってのは、ちょっと違うと思いますけどぉ」


「ジーク、リリアン……」


ジュリオさんは、ふんと鼻を鳴らした。「……くだらん。体育祭で良い成績を取ったからといって、あまり調子に乗るなよ」


———それだけ言うと、振り返ることもなく去って行った。



「フィルっち、あんまり…気にしちゃダメだよ?」

「はっ、まだあんなこと言ってるヤツいたのかよ。あのツンツン頭が!———あー、クソッ。気分悪ィ」

「……いいよ、二人とも。大丈夫だから」


———分かってた。


分かってた、はずなんだけどなあ……


                 次回、第八十六話。お楽しみに☆