コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: えっ、今日から私も魔法使い!?【お知らせ】 ( No.260 )
- 日時: 2016/02/11 23:03
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第九十八話 <波乱のお見合い編>
「くっ……はあ、はあっ」
走る。たまにつまずいて転びそうになるが、それでも前を見続けながら私は走っていた。
「ジーク、ジーク!お願い、無事なら返事をして……!」
切実な思いで無線に呼びかけるが、ザザッ、ザザッとノイズ音が走るだけで、いつものんきな幼馴染の声はいつまでたっても聞こえてこない。
パーカーの袖で汗をぬぐう。もうどれくらいたっただろうか、次々と消えていった仲間の顔が次々と浮かんでくる。
心細い。もう出口の場所も忘れてしまった。みんなはどうなったのだろうか、ジークももう、もしかしたら……。
(違う違うっ、そんなこと考えちゃダメッ……!)
ぶんぶんっと頭を振り、嫌な考えを飛ばす。そうよ、あいつがそんな簡単に死ぬわけないじゃないっ。
——と、その時。
『ザ——ザザッ。おい、フィル。……聞こ……ザッ、えるか。……返事しろ』
「ジークっ!?」
そう叫ぶと立ち止まり、無線に耳を傾ける。あんなにも待ち焦がれた、ジークの声だ!
「あんた今どこにいんのよっ。こっちは大変だったんだから!ねえ聞いてよ、みんな変な化け物に捕まっちゃったの、それでねっ……」
「まあ落ち着け、フィル。いいか、よく聞け」
いつもとは感じの違う、静かに諭すようなジークの声に、自然と心が落ち着きを取り戻していく。私は深く深呼吸をすると、もう一度無線に全神経を集中させた。
「……分かった、ごめん。続けて」
『よし。いいか、多分俺たちは今、同じ部屋に向かっている』
「どういうこと?」
『探索してみて分かったんだけど、このダンジョン内のすべての道が、一つの道にたどり着くようになってるってこと』
「それって……」
私は後方を振り返る。
(それはつまり、もうすぐここにジークがやってくるってこと……?)
『だから俺たちが合流できるのと同時に、きっとそこにコーカー家の秘宝が眠ってるはず……ってね』
「そっか!」
ふう、と一息つく。——良かった。あいつの声が聞こえることが、こんなに安心するなんて。
『それと、お前が言ってた化けモンのことだけど。もちろん、俺も会ってまーす』
「えぇ!?大丈夫だったのっ」
『ったりめーだろ、おじょーちゃん。てか無事じゃなかったら、今喋れてないだろ』
「あ、そっか」
あはは、と二人で笑いあう。心の中が、じんわりと温かくなるような気がした。
『じゃ、今から向かうから。そこで待ってろ』
うん、と返しかけたが、すぐに思いとどまった。「いい、私先に行ってるから」
『は?何でだよっ。お前ひとりじゃ危険だろうが、ちょっと考えたらわかるだろっ』
ジークが珍しく声を荒げる。分かっている。ジークが本気で心配してくれてることも、私一人の力じゃ何もできないことも。
でも——。
「私、ここにたどり着くまでにみんなに助けてもらった。私だけ——逃げてきたの。だから少しでも、役に立ちたい。そうじゃなきゃ、みんなにきっと怒られちゃうよ」
笑い交じりに、私はそう宣言した。一方ジークは少しの沈黙の後に、言った。
『——わーったよ。てかその神経のずぶとさ、お前本当に女かよ?くははっ!』
「なっ!あんたはいつもそういうこと言う!!」
やっぱり。もう、ちょっと安心しちゃった私がバカみたいじゃないっ。
『じゃ、気を付けろよ。信じてるぜ』
「私も信じてるわよ、バーカ!」
そこで、無線はぶつりと切れた。もう何の音も発しない。ノイズも鳴らない。完全に壊れてしまったのだろう。
「——……。」
私はもう一度、後ろを振り返った。あいつに会いたい。顔を見たい。
「……バーカ」
そうつぶやき、前を向くと、前方に見える僅かな光に向かって走り出した。
☆
「おー、怖い怖い。これだから、最近の女には逆らえないっつーの」
ものすごい速度で飛ばしつつ、ジークはにししと笑う。だが、脳裏に浮かんだ一人の少女の姿に、表情を引き締める。
(おい、分かってんのかジーク・オースティン。もしフィルに何かあったら、俺はお前を許さねーぞ)
少年は少女のために覚悟を決める。その笑顔を見たいがために、ただ靴底をすり減らすのだ。
「……待ってろよ。フィル」
次回、第九十九話。お楽しみに☆