コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- えっ、今日から私も魔法使い!?【参照4000突破感謝】 ( No.266 )
- 日時: 2016/02/26 23:58
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第九十九話 <波乱のお見合い編>
パシンッ。
「ッ!」
大きな部屋に踏み入れた私の足の近くを、なにか鞭のようなものが打ち付けた。
(これって……!)
目の前を見ると、中央の地面からいくつものツタが飛び出ていた。私はサッと身構えると同時に、素早く部屋を観察する。
どうやらここがこのダンジョンの最深部らしい。部屋はぐるっと火のついた蝋燭が取り囲んでおり、かなり明るい。学校の体育館くらいの広さがあるが、不気味に蠢くツタを除いては、何もない殺風景な部屋だった。
その時。
「ギョェェェエェ!!」
「!!」
奇妙な何かの生物の鳴き声とともに、ズガーン!と中央の床が抜けた。
土埃の向こうには、巨大な生物の影が……
「な、何なの、アレ……!?」
「それ」は、一言でいえば植物だった。だが、樹木のように太い茎の先には、つぼみの先についた巨大な目がギョロリと気味の悪い光を放っている。そしてそれを中心に、何十本もの丈夫なツタが目玉を守るようにひしめき合っていた。
「こ、こんな化け物が実在するなんて」
私はゴクリと唾を飲み込む。一体どうやって倒せば。
いやいや、と首を振る。その前に、戦う手段のない私にとっては、今のこの状況は絶望的なのだ。
すると、お化け植物はいきなりツタの一撃を繰り出してきた。私は横にかわしてそれを避ける。次々と繰り出される鞭のようなツタを、剣の稽古で身に着けた反射神経を生かして避けていく。ある時は上からたたきつけるように、ある時は足を薙ぎ払うように。
「このままじゃ、こっちの体力が持たない。探さないと、あいつの弱点……!」
幸い、お化け植物は真ん中から動けないようだ。私はなるべく一か所にとどまらないよう動きつづけながら、周囲に目を光らせる。
「あっ、あれならもしかして——」
私は壁際にあるものを見つけ、手をのば——
グイッ
「げっ、しまっ——!!」
気を抜いた一瞬のスキを突かれ、気づいた時には世界が反転していた。見ると、足首にツタが絡みつき、宙づりになっていた。まずい、このままじゃ!!
「ッ……、?」
てっきりとどめの一撃が来るだろうと構えていたのだが、なぜかそれはやってこなかった。代わりに、大きな目玉のある顔の方に近づいていく。
「何、があるっていうの?」
すると、突如目玉の下に空間が開いた。これは、口……!?
そして、見えた。
黒い空間の中に、ピンク色に光るもの。それは、
「リ、リリアン、なの……?」
リリアンだけではない。エリオット君の茶髪、そしてリュネの白い羊毛のような髪の毛がのぞいていたのだ。
——生きていた。気を失ってはいるけど、確実に生きている。
そのことが分かると、体に力が湧き上がってきた。私は覚悟を決めると、右手に隠し持っていた蝋燭を、目玉に向かって投げつけた。
「ギョエェェェエ!!」
「わわっ!……い、いたたっ」
苦痛の鳴き声を上げ、お化け植物がツタの力を弱めた。私はズドッと床に落ちる。
今ので分かった。このお化け植物は、私たちの命を取ることが目的ではなく、あくまで捕らえることが目的らしい。
そうとなれば——!
私はもう一度壁際によると、蝋燭をいくつかつかみ取った。弱点はおそらくあのどでかい目玉。私にももしかしたら、勝機があるかもしれない——。
——そんなのは甘い考えだったと、私は知ることになる。
バシンッ!と、突然うなじを殴られた。
「うっ!」前のめりに倒れこみ、目の前がチカチカと点滅する。一瞬遠くなりかけた意識を取り戻したところで、しゅるしゅると体にツタが絡みつき、空中に持ち上げられる。
「ぐ……」
ギリギリと締め付けられ、せっかく保っていた意識が再び遠のいていく。
このまま……負けちゃうのかな。そうしたら、ジーク、助けに来てくれるのかな。でも、迷惑かけるのは、嫌だなー……
そんなことを考えながら、まぶたが完全に閉じようとした瞬間、
ボワッと。体の周りが熱気に包まれたと思うと、自由になった体は一瞬宙に浮くと、落下した。だが衝撃は無く、暖かなぬくもりが私の体を包んだ。
「……ジーク」
「よっ。ごめんな、遅くなって」
次回、第百話。お楽しみに☆