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- えっ、今日から私も魔法使い!?【参照4000突破感謝】 ( No.267 )
- 日時: 2016/03/06 23:39
- 名前: 雪兎 (ID: VIeeob9j)
第百話 <波乱のお見合い編>
ジーク……。
「やーやー。俺もさあ、なーんか面白そうなヤツがいるっぽいから、戦うの楽しみにしてたんだけどさあ?」
ジークは私を近くに下ろすと、巨大化させた鎌を見せつけるように一回転させる。
「……やっぱ面白いわ、オマエ。でも、」
ジークは急に笑みを消すと、大鎌を肩にガンッと担ぎ、お化け植物をギロリと睨みつけた。
「——俺のフィルをよくも痛めつけてくれたなァ、このクソ目玉野郎」
「ッ!!」
お、俺のって。なに恥ずかしげもなく言ってんのよ!
悔しいけど、すごく安心してしまった。同時に……
(顔が、熱い。何なの、この気持ち……?)
自分を罵る言葉に反応したのか、お化け植物はギョエェ!と怒りの鳴き声を上げ、数十本のツタを一気に伸ばしてくる。
こ、こんなのジークでも避けられない!
「危ないッ!!」
だがジークは避けようとも焦りもせず、いきなり大鎌をブンッと上に放り投げた。
「……ブレイズ・ブレイド」
すると、ジークの頭上にあった鎌が、光とともに突如二つに分裂した。
そして、それらは光の尾を引きながら、広げたジークの両手に宿る。
「き、れい」
思わずそう呟いていた。
右手には炎でできた長剣、左手には同じく炎でできた短剣を構え、同色の赤毛を怒りで逆立たせ、鳶色の瞳で巨大な目玉を見つめるその姿は、
(——あ。あの時と、同じだ)
忘れもしない、入学式の日。建物の屋根を軽々と跳ねまわりながら浮かべた、あの表情を思い出す。
(顔は違っても、やっぱりオーラは同じ。……戦闘を、楽しんでるのね)
こんな状況ながら、やっぱり心配になる。あんなに戦闘好きじゃ、いつ命を落とすか……。
その間にもジークは、敵を翻弄し続けていた。
右の長剣でツタを薙ぎ払ったかと思えば、背後から迫る追撃を左手の短剣で切り裂く。ジークが身を翻すたびに、ツタがまとめて切断されていく。
「ほらほらどうしたァ!ご自慢の「手」は随分脆いようだしなァ?……もういいや。これ以上楽しめそうにねぇし、さっさと決めるか」
ニヤリと不敵な笑みを浮かべ、長剣を大きく振りかぶる。
「よし、これで決まる……!」
——だが。
燃え盛る長剣を目玉に向かって振り下ろした瞬間、ジークの視界を何かが遮った。
「うおっ、と……、!?」
それは。
「リ、リュネ!」
意識を失い、唾液にまみれたリュネが、宙にぶら下げられていたのだ。
「——チッ」
「ひどい……!」
慌てて刃を止めたジークだったが、一瞬のスキを突かれ、次の瞬間には二振りの剣は宙に消えていた。
「ッ!やばっ——、」
「ジークっ!!」
残り少ないツタはジークの身体に絡みつき、リュネとともに大きく開いた口へと運び始める。
ジ、ジークまで……。
みんながが敵わないんじゃ、私なんて……!
思わず座り込む。あきらめかけ、ふと上を向いた先に、首だけをこちらに向けたジークの姿があった。
肺と喉をを締め付けられ、もう声も発することのできないその口が、わずかに開く。
に、げ、ろ。
「……ッ!!」
無理だよっ。みんなを置いて逃げるなんて……!
頭の中を、たくさんの思い出がぐるぐる回る。
入学式の日、最初に明るく話しかけてくれた、親友のリリアン。
不良に絡まれていたところを助けてくれた、優しいエリオット君。
本当は誰よりも他人思いな、とっても強いリュネット。
そして、
バカで戦闘狂ですぐからかってきて、空気読めなくて周り見えてなくて、でも——。
明るくて優しくて、誰よりも他人想いでとっても強い、ジーク。
「……返して」
またみんなと、笑って、泣いて、慰め合いながら過ごすあの日々を!
「返してぇッ!!!」
☆
ドクン。
——欲しいか?
「——……」
(また、この声)
——また力が欲しいのかと聞いている、娘
「——……しい」
——聞こえぬな、娘。何が欲しい?
ドクン。
「……力が欲しい!守られるのはもういやだ。みんなを守れるような、もっと強い、あなたの……ううん、私の力をちょうだいッ!!」
声はふふっ、と笑った。
——よかろう、娘。くれてやる。どうせお前は、
いずれ私のものになるのだからな。
☆
「——はっ!?」
心臓を貫くような、激しい痛みが私を襲った。
ジリジリと焼けるようだ。苦しい。熱い。でも、
それでもいい、早く、
「……おいで、私の力」
その瞬間、部屋中がまばゆい光に包まれた。
次回、第百一話。お楽しみに☆